何故か姉、弟は長年にわたって憎みあい疎遠になっていた。舞台俳優の姉アリスと、詩人で弟のルイ。2人は両親の事故によって再会することになる。こう書くと、何だかよくあるコメディのようだが、2022年カンヌ映画祭コンペ部門出品作品である。

 監督は「あの頃エッフェル塔の下で」のアルノー・デプレシャン。姉アリスに「サンドラの週末」のマリオン・コティヤール。弟ルイに「わたしはロランス」のメルビル・プポー。ルイの妻フォニアに「彼女が消えた浜辺」「パターソン」のゴルシフテ・ファラハニらが出演している。

 いわゆるコメディ的な部分とシリアスな部分がうまく融合しているあたり、ただの娯楽映画ではない。何故なら、何故仲がここまで悪くなったのか?などは説明されない。いや、ただ事ではないのだ。俳優として成功した姉は、弟のことをインタビューされると、次男の弟についてしか話さないし、長男のルイに話が及ぶと、平然としながらも鼻血を流したり、彼女の感情は激しく動揺する。

 長男ルイも同じだ。で、すべての事は観客が推測するしかない構造なのだ。で、面白いかと問われると、「面白い」。

 例えば、次男の弟はゲイだし。アリスの息子は、叔父のルイにあこがれと云うより愛を感じているようだし。姉弟両親子どもたち家族は仲良く平和で居られない関係なのだ。冒頭、事故にあう両親にも問題はありそうだ。子どもたちは母親を避けていたようだし、ルイに至っては「自分が防波堤になって姉弟を守った」と思っているし、詩人として文学賞を受賞した時から、俳優のアリスはルイを何故か憎むようになったなどと告白したりする。

 こんな家族、心理を考えるだけで、人間関係のシナリオを2つも3つも書けそうで、面白いのだ。アリスは何故?仲が悪いだけで、ルイの妻や亡くなった子どもと会わなかったのか?

 考えて考えて観るしかないし、安物のテレビドラマのように「伏線回収」などないから自分で映画を楽しむしかないのだ。だから、映画com評価2.7。(映画ファンはやはり家族っていいね!的なものを求めているのかね)

 これは私の感じた事でもあるが、アリスはルイを弟としてではなく、別のものとして求めていたのではないか?少し酔ったアリス、大嫌いと言いながらルイの事は笑顔で話すし、ファンの女性に「ルイに会わないでね。一発で恋に落ちるわ。私のファンでいてね」みたいな意味深なセリフもある。

 デプレシャン監督は家族関係の中の隠された部分や彼らの心が閉ざしてきた秘密を深く掘り下げ、自分なりに答えを出してからドラマを構築し、他人から見えない部分、当事者が墓の中まで持っていきたい秘密は映画から削除したのではないだろうか?

 軽いタッチだが、なかなか手ごわい映画だ。気を緩めずにご覧あれ。

 2023年9月公開。