俳優、シャルロット・ゲンズブールが、母親であるジェーン・バーキンにプライベートにカメラを向けて、二人の関係を再構築していくドキュメンタリーだ。

 ジェーン・バーキンと言うと、セルジュ・ゲンズブールと共に、私の世代では、デュエット・シングル「ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ」のセクシーな声が頭の中で繰り返されるほどのインパクトがあった歌手、俳優であった。

 人間関係が分かりにくいが、ジェーンには、過去3人のパートナーがいて、作曲家のジョン・バリーとの間に、長女のケイト・バリー。離婚後、フランスに渡ってからのセルジュ・ゲンズブールとの間にシャルロット・ゲンズブール。映画監督ジャック・ドワイヨンとの間にルー・ドワイヨンという3人の娘がいる。

 両親の破局後、父セルジュのもとで成長したシャルロットには、ジェーンに聞いておきたいことがあったという。母は次女である自分よりも、今は亡き長女ケイトを愛していたのではないかということ。あるいは、母親が自分に対して遠慮しているのではないか等々。共に表現や芸能界にいて、話せないことが多かったのだろう。

 本作は、そんなプライベートな内容にフォーカスしたものだから、ドラマのように設定がありプロットがあり、観客が気持ちを共感できる演出があるものではないので、分かりにくいと思う人も多いだろう。

 その逆に、作り物の感動なんて興味ない!という方には何かが触れてくる手ごたえがある。2018年の東京から始まる撮影は、見やすく見せるなんて忖度はない粗いものだし、ピントだって外れたりしている。いやいや、終盤にはスーパー8の画面や、シャルロット自身が撮影する16mmの映像も加わる。

 だから、インタビューが中心なのだが、映像的だし、フィルムアートな感覚もある。それもそのはず、シャルロットはあのラース・フォン・トリアー監督にも映像作りの手ほどきを受けたという(この映画に発揮されているかは不明)。で、このような作品なので、ストーリーは書けない。セルジュ・ゲンズブールとシャルロットが暮らした家が残っており、そこにジェーンが訪れるシーンは圧巻だ。

 俳優であり監督として、家族にカメラを向けた作品には、サラ・ポーリーの「物語る私たち」がある。この作品もプライベートが劇映画を、ポンと飛び越えてしまう感覚があり、お薦めだ。

 話がそれたが、ジェーンとシャルロットという他者の眼差しを共有して、全く生活の時間や環境の違う私たちの現実を眺めてみるのも良いかも知れない。

 最後に、ジェーン・バーキンは本年7月16日に亡くなったとの事である。

 2023年8月公開。