スティーブン・スピルバーグが、映画づくりの面白さと出会い、映画監督になるという道を歩み始める自伝的作品。

 フェイブルマン家の少年サミーは、母親から父親に内緒で8ミリカメラを使うことを許される。彼はモノクロの8mm(ダブル8)に夢中になる。やがてボーイスカウトに入る年齢になると、スーパー8で、友人たちと映画を撮り始める。映画の序盤は、少年から見た映画を手作りする面白さが描かれていく。

 そして映画の中盤は、家族や仲間たちと過ごす日々の中、映画が捉えてしまう、ある一瞬に、サミーの心乱されるエピソードだ。それが何かは書かない。

 母親はピアノが好きで、芸術家タイプ。だから、母はそんな彼の夢中を応援してくれるが、天才肌の技術者である父親は、その夢を単なる趣味としか見なさない。そのあたりの葛藤が、映画なんぞにのめり込む人間には宿命的だ。

 まあ、自分のことを持ち出すのもどうかと思うが、私の場合は、割といい高校に入学できた祝いに、シングル8を買ってもらい、のめり込んでいった。だから、この映画、他人ごとではないのだ。彼の使うカメラも、やがて、16mmになり、ボレックスSB型、ハイスクールでの撮影には、アリフレックス16STまで登場する。ホント、見ながら思い出と照らし合わせながら、ハラハラと痛みまで感じてしまう。

 などと書いてはいるが、これって面白い?ということで、映画の紹介に戻ろう。

 主人公サミー役は新鋭ガブリエル・ラベルが務め、母親は「マンチェスター・バイ・ザ・シー」のミシェル・ウィリアムズ、父親はポール・ダノが演じている。

 監督のスピルバーグは「『フェイブルマンズ』で描いているのは、比喩ではなく、記憶なんだ」と語るように、高校でのユダヤ人差別なども描かれたり・・・。たぶん、特別な思いが詰まった作品だと言える。

 だから、母親のある種神秘的な心の模様を映し出す表情や、父親が何かを知ろうとしない表情、失ったものを追憶し諦める瞳など、作者自身、若い頃には見えなかったものまでを、俳優の演技を引き出すことで見せてくれるあたりはさすがだ。

 この映画はフィルム撮影である。当然35mmがメインだが、16mm、スーパー8が挿入される。撮影する行為まで、芝居が要求される。撮影はポーランド出身のヤヌス・カミンスキー。

 そして映画の世界を目指すサミーが出会うのは、ものすごく有名な大監督。それも書くわけにはいかない。ラストカットにクスっと笑える人は、映画を愛する人かな。

 2023年3月公開。