山里でひとり暮らす陶器職人・神谷(役所広司)の元に一流企業のプラントエンジニアとしてアルジェリアに赴任中の息子・学(吉沢亮)が一時帰郷する。学は現地で知り合った婚約者のナディアを連れている。ナディアの家族は内戦で失われている。

 実は、神谷自身、孤児院の出身。妻を亡くした後、息子を育て、陶器に打ち込んできた。

 また、その集落にはジャパンドリームを夢見たブラジル人が多く住んでいる。そんな中のマルコスとエリカは、彼らを目の敵にする半グレ集団に目を付けられ、ひどい目にあわせられている。そんな彼らに親切にする神谷。実は、陶器作りに夢中になる前は、けっこう暴力的な札付きだったらしい。

 と、まあ、シナリオの設定を書きつらねると、ここからどんなドラマが生まれるかは想像がつくかも知れない。

 本作を鑑賞前の方のためにこれ以上は書かないが、公式HPで書かれている範囲で言うと、陶器づくりを継ぎたいと言う学に反対する神谷。結論は出さず、アルジェリアに帰った学たちに悲劇が襲うというもの。

 映画と離れるが2013年1月のアルジェリアでの事件に思いあたる。アルジェリア東部、リビアに近い天然ガス精製プラントをアルカイダ系の武装勢力「イスラム聖戦士血盟団」が襲撃し、8カ国37人が殺された。その時、日本からプラント建設を行っていた日本企業の10人もその中に含まれていたというもの。そしてこの事件は、改正自衛隊法の成立につながって行く。

 映画の一つの軸はこの事件。父親である神谷の心中を察すると、これほどの悲しみはないだろう。

 で、もう一つの軸の、労働者の底辺を担う外国人労働者を苦しめるのが、ヤクザも一目を置く半グレ集団というのは、どうも単純で腑に落ちない。もちろん、なぜ目の敵にされるのかという理由も明確に提示されてはいるのだが、人の憎しみなどは図式で納得できるものではない。

 で、強靭な半グレ集団を逮捕させるにはクリント・イーストウッドの「グラン・トリノ」しかないのだろうけれど、いささか幼稚さを感じてしまった。

 公式HPにある「国籍や育った環境、話す言葉などの違いを超えて家族を作ろうとする想い、大切な人と共に生きていきたいという願いは、どんな憎しみよりも強靭な無償の愛へと昇華し、殺伐としがちな現代に温かい希望の明かりをともしてくれるだろう」というあたり、もっと丹念に語ってほしかった。そう、例えばアキ・カウリスマキ作品のように軽快に語る事も出来たのかも。

 監督は「八日目の蝉」「いのちの停車場」などの成島出。いくつか批判的な見方もしたが、日本を代表する俳優たちの抑制した芝居は必見。

 2023年1月公開