高橋伴明監督が板谷由夏を主演に、バス停で寝泊まりするホームレスにならざるを得なかった女性から見える日本社会と、彼女の孤立や孤立せざるを得ない人々を描いたフィクション。

 あえて、フィクションと書くのは、実際の事件に触発され企画された作品だからだ。思い出そう、事件は渋谷区のバス停で寝泊まりしていた女性が頭を殴られて死亡したもの。被害者の女性(当時64歳)は、短大時代には演劇に打ち込み、東京でコンピューター関連の仕事に就いた後、2020年2月頃までは首都圏のスーパーでの仕事をしていたが、家賃滞納で杉並区のアパートを退去して以来、路上生活をおくっていたという。そして命を落とした。2020年11月16日だ。犯人の男は当時40代。引きこもり気味の男で、ボランティアで路上の清掃などをしていたという。いわば、弱者による差別的、弱者殺害の事件ともいえる。

当然、映画を創る人間には興味深い事件だ。

 ただ、本作は、事件の謎解きだけではない。そんなことに意味はない。新たなるフィクションによって、監督が今の時代に「もの申す」作品に仕上げられている。

 現在の政治や時代に義憤を感じる方にはおすすめの映画だ。でもね、カット割りや音楽の使い方などの演出は古臭く、新しい映画の工夫はまるでないが・・・面白いのだ。

 60年末から70年に活動したとおぼしき老人たち。柄本明や根岸季衣、下元史朗らがホームレスとして出演。「ああ、あの事件。そうだったの?」みたいな笑いや「何を祈っているのですか?」「明日の朝、目が覚めないように・・」なんて、思わずハッとするセリフもベテラン俳優が言うとリアルだ。差別を誘導するユーチューバー役に柄本佑。かなり歳をとったルビーモレノあたりもいい。もちろん、主役を演じた板谷由夏も面白いキャラクターを作りこんでいる。まあ、ちょっと綺麗すぎる感はあるが。

 社会という公共が、市民を救うことをしないというのは、未熟だということ。社会的弱者(ジェンダーによる差別を受ける人を含め)を分断して、批判の矛先を変えて自分だけ安全なところに居れば良いという人たちに、この映画のラストを。ちょっとした冗談なのだが・・・興味深い。

 2022年10月公開。