北京夏季、冬季オリ・パラで開閉会式の総監督を務めたことでも有名な中国のチャン・イーモウ監督の新作。

 美しい砂漠を一人の男が、疲れ果てながらも、ある種の意志を持って延々歩いていくシーンから始まる映画は、最初は渇きと、貧しそうな少女との出会いが中心となる。物語がゆっくりと進むうちに、男は生き別れた娘の姿を、ニュースフィルムの中に探していることが分かってくる。そのニュースが娘を映す時間が約1秒。それを「ただ、観たい」という情動が男を動かしている。

 映画が好きな人には、そんなシーンがある。いわゆる名画ではなくても、「あのシーン」があるはずだ。ましてや、会うことの出来ない娘なら。

 この映画、きわめて進行は淡々としているが、内実はエモーショナルであり、また監督自身、忘れたくないイメージを再現しているようにも見える。ボロボロになってしまったフィルムの洗浄や乾燥。ただ映画が見たくて、待つ観客たち。さあ、フィルムを装填して、映写機を回す、「あの感じ!」、今のデジタルにはない、フィルムの手触りなのだ。

 強制労働所を脱走し、逃亡者となりながらフィルムを探し続ける男の物語は、映画愛というより、フィルム愛。8mm少年から映画の世界飛び込んだ私にとっては、言葉で説明できない感動が残った。

 逃亡者に「最愛の子」助演のチャン・イー。リウの娘(映画でも名前は呼ばれない)役に新人のリウ・ハオツン。今後に注目の若手俳優だ。

 監督のチャン・イーモウは文化大革命当時、紡績工場で働いていた頃に独学で映画撮影を学び、その後入学した北京電影学院を撮影コースで卒業している。だから、撮影された風景と人の織りなすドラマチックな関係は、あえて言葉にしなくても感じる人にはビンビン響いてくるのかも知れない。

 公式HPでは「映画愛」という言葉が使われているが、私は「フィルム愛」だと思う。1秒の断片、それは24コマだ。見た感じでは1秒と20コマはあったと思うけど、まずは、その何でもないニュースフィルムの断片と、時間により印象を変える砂漠の風景。何よりも生き辛い時代の中で、映画を待つ人々の姿に出会って欲しい作品だ。人にとって大切なのは、追い求めることと、記憶の中に確かな手ごたえを感じること。是非。

 2022年5月公開。