Netflixが制作し、劇場公開と同時配信の形をとった作品。作家の燃え殻が発表した原作の映画化である。

 1995年からの2020年までの森山未来演じる誠の、彼女と出会った若い日から、2020年のコロナ禍までの時代を回想する。つまり、イ・チャンドン監督の「ペパーミント・キャンディ」と似た構造をとる。

 ただのバイトから、就職し、テレビの仕事とはいえ下請けのしかも末端の会社にいて、最初はテロップ製作から、最終は番組のCGフリップへと時代ごとに進化していくのだが、忙しいだけでヤリガイなんてない。若い日の小説家になりたいなんて夢は、いつか日常に紛れてしまう。そんな主人公が生きる時代は、私より15歳ほど若いのだが、同じ世界を見て来たものとすれば懐かしい風景だ。

 最初はファックスで写植テロップを依頼していたな。バブル末期は詐欺師みたいな奴ばっかりだったな。など、ついつい思い出しながら観てしまう。

 だから、この映画は、恋愛映画なのだが、自分にとってのかけがえのない筈の人生と、時代をやり過ごしてきたことへの痛い映画でもある。でもね、冷静に考えると、そんな業界やパソコンの仕事をしてこなかった「普通」の人に魅力があるのだろうかと、いささか不安になる。

 私にとっては、森山未来もいいし、最初の彼女、伊藤沙莉も良い。東出昌大もやはり個性的だ。しかし、私にはもう一つ見て見たいことがあった。それは、あの時代、アップルのパソコンが出現し、ウインドウズ95に長蛇の列ができ、バブルが崩壊し、ノストラダムスは大外れ。東日本大震災があった。そんなそれぞれの時代の本質のようなものだ。しかし本作では、うまいVFXで甘美な過去を回想するにとどまった。やや残念ではある。

 監督は、テレビ東京とNetflixが共同制作したドラマ「恋のツキ」を演出し、本作が映画監督デビュー作となる森義仁。脚本は「さよなら渓谷」「そこのみにて光輝く」の高田亮。

 2021年11月配信・公開。