デビッド・フィンチャー監督によるNetflix作品。脚本は監督の父親、ジャック・フィンチャーの遺作。オーソン・ウェルズ監督・主演の「市民ケーン」の脚本家ハーマン・J・マンキウィッツの執筆過程と、その時代背景を描いた作品。本作は「市民ケーン」同様、過去回想を重ね、「市民ケーン」が描かなかった、より複雑な時代背景をテンポ良く見せてくれる。
1941年に発表された「市民ケーン」は、新聞王として巨万の富を得たケーンが主人公。その死の際に残した「バラのつぼみ」という言葉の謎をモチーフにケーンの人間性を描いていくものだが、その中には「こんな小さな事件を取り上げてどうする」という声に「見出しを大きくすれば大事件になる」と話すシーンなどがあり、なるほど、そのモデルと言われた実在の新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハーストから映画上映の妨害を受け、興行的には失敗し、アカデミー賞においても脚本賞のみとなったのも、頷ける。それが、予備知識。
で、この「Mank」。そのあたりの裏話と、世論誘導のための細工、新聞王ハーストの映画界への圧力、あるいは選挙前に無名俳優をインタビューに使い、共和党有利になるようにフェイク映画ニュースを作ったりする場面が出てくるので、アメリカンドリームの薄っぺらさを実感出来て面白い。時代は民主党大統領のルーズベルトの時代。団体交渉権保障などによる労働者の地位向上・社会保障の充実などの政策を行ったものだから、大資本家と共和党は面白くない。そんな時代の映画界において、才能豊かだけれど、破綻したような生き方をする脚本家の半生を見せていく。当時の映画撮影風景も多く見せてくれるし、さらに「この映画をフィンチャーが撮ることができた」背景を考えるのも面白い。
また、「市民ケーン」の撮影を担当したグレッグ・トーランドの手法のライティングやパンフォーカスなども発見できる人は、シネフィルだろう。さらに、フィンチャー監督のこだわりは、デジタル作品なのに、画面右上に出る、フィルムチェンジマークとチェンジ時の画面揺れ。笑ってしまう。モノクロ、モノラル作品。ただし、スコープサイズ。132分の大作。
出演はゲイリー・オールドマン、アマンダ・セイフライド、リリー・コリンズ、アーリス・ハワード他。
2020年12月Netflix配信開始だが、2021年関西でも単館系で公開。