タガログ語で作られている映画。子どもたちのお芝居はたぶん棒読みなのだろうが、この子どもたちの瞳に宿る「あこがれ」「悲しみ」「切なさ」の感情は豊かだ。そんな、アンバランスが童話的な世界観を醸し出しているのだろう。「お母さんはいくらで買えるの?」いかにも子どもっぽいセリフだが「大人は子どもを買うのに」まで言われると、彼らの現実が直面する社会の過酷さが見えてくる。

 マニラ市内のスラムに暮らす、孤児たちの実態も見え隠れするが、長谷井宏紀監督は、そのことよりも、盲目のギター弾きと孤児のブランカが、小さな明かりを見つけていくメルヘンに仕上げたかったのかも知れない。

 ベネチア・ビエンナーレ、ベネチア国際映画祭の出資で製作され、第72回ベネチア国際映画祭でソッリーゾ・ディベルソ賞、マジックランタン賞を受賞したこの作品、77分という短い作品ではあるが見ごたえは十分。写真家としてフィリピンを中心に活動してきた長谷井監督のキャリアが実を結んでいる。

 盲目のギター弾きピーター役のピーター・ミラリ、この映画の完成後、突然の病で逝去されたとのこと。残念。2017年7月公開。