イランを含む入国制限令に抗議して、米アカデミー賞授賞式をボイコットしたアスガー・ファルハディ監督作品。前作「彼女が消えた浜辺」もミステリーというには謎よりも不条理が中心の世界観だ。

 今回の「セールスマン」は、世間を気にして警察に通報しない妻は正しいのか?自力で犯人探しに乗り出し、復讐への思いにとり憑かれ、同時にどこかで被害に遭った妻を責めている夫は正しいのか?あるいは急速な都市化を断行する社会は、はたまた娼婦が住んでいた部屋を斡旋した友人は正しいのか?いったい誰に罪があるのかと、板挟みにやり場のない怒りを分かち合っている構造だ。

 しかし、ある種の相反する正義や、理解できる事情を投げかけ、悲し気な表情を見せることだけが映画なのだろうかといささか表現の幅の狭さを感じるは私だけだろうか。タラネ・アリドゥスティの評価が高いが・・・。2017年6月公開。