「愛」の映画だ。「夢」なんて言葉が出ないのが良い。というよりそんな余裕すら持てない彼らの姿が、じんわりと、生きることの苦しさと同時に喜びのようなものを醸し出す。

 池松壮亮が素晴らしい俳優だということは誰しも認めることだが、(池松は、不安な感情を棒読み的セリフでこなし、違和感と共に感情をコントロールし、やがて観客に心を見せていく)この映画が初主演となる石橋静河が良い。最初の印象と、この映画を過ごしてきた後の彼女の印象が変わっていく。観客が彼女を愛していくからだろう。(これは監督の演出力かも)

 まあ、見え過ぎた表現主義的映像や、アイロニカルなアニメーションの挿入など、いささかやり過ぎの感もあるが、東京という巨大な都市の底辺にいる、いわば弱者を弱者の視線で眺める作者の立ち位置も好感が持てる。映画はこうでなきゃと思ってしまう。「今どこ?走っていく!」こんな青春だったら、もう一度やりなおしてみたい。監督は石井裕也。2017年5月公開。