『小右記』(by 藤原実資、編:倉本一宏)、読んだ。 | 気が向いたときだけの大阪日記

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タイトルのまんま、気が向いたときだけの不定期大阪日記です(笑)

 

▲文庫本とはいえ本編だけで757ページという分厚さ、1,980円という驚きの値段(;'∀')

 

 

「大河ドラマで大注目」(笑)な『小右記』読んだ。

 

大注目の理由は、その大河ドラマ「光る君へ」で著者の藤原実資を演じるロバート・秋山のおかげだと思われる(爆)

 

しかーし、この本読んでいても、ずーっと秋山実資の顔がちらついて困った(爆恥)

 

「小右記」の原本は全61巻で、すべて漢文で書かれている。そのうちの現存6563条の中から、初心者にも面白い内容が精選されているらしいが、それでも757ページもある(◎_◎;)

 

各条(各日)は現代語訳・書き下し文・漢文訓読文(ただし送り仮名抜き)、そしてそのあとに編者・倉本一宏氏の解説が加えられている。

 

という構成なので、実際に読むのは現代語訳と解説だけであり、ページ数的には半分の370~380ページくらい。ただ、倉本氏の現代語訳はほぼ「直訳」であり、それに加えて訳者自身の解説がないと理解が難しいものも多い。書き下し文と漢文については、必要に応じて目を通すという程度である。

 

内容は日記といえば日記だが、90歳という当時にしては驚異的な長命を保った藤原実資(天徳元年・957年~永承元年・1046年)の55年間にわたる、当時の宮廷における政務・儀式、有職故実に関する記載はなかなか興味深い。

 

ただ、この時代の政治・習慣にある程度の知識がないとわかりにくい部分は多く、途中PCでいろいろ調べながら読み進めたくらいである。

 

当時貴族の間ではさまざまな「日記」が存在したが、その目的は完全に「記録」だった。父祖の代からの日記を所有している家は、宮中儀式の先例やしきたりに関する情報を持つことになり、他の貴族に対して優位に立つことができた。

 

この「小右記」の中でも、藤原道長や頼通、その他貴族が実資に「先例」や「儀式においてどのように進めればよいか」を聞きに来たことが書かれていて、「書き記して渡した」という記述がいくつも見られる。

 

そうかと言っていつも気持ちよく提供しているかというとそうでもなく、あるとき伊周から「着座(という儀式)の記録の部分を書いて送ってほしい」と言われた際には「然れども奉らざるなり」と拒否っている。

 

見せる見せない・教える教えないにより宮中の人間関係が構築され、実資は父祖の日記を通して権力を行使していた。

 

実資の知識は豊富で、道長亡き後頼通や教通(いずれも道長の子)の時代の政務・儀式は、実資を軸として回っていた感があると倉本氏も書いているほどである。
 

日々の政務・儀式に関する記述に加え、いわゆる歴史上の出来事に関することがらで「えっ、こんな事件があったんかいな!!」な話もある。

 

「刀伊(とい)の入寇」がそれで、白村江(はくすきのえ)の戦(天智2年・663年)以来の外国勢力との戦闘だったらしい。1019年(寛仁3年)に女真族の海賊が対馬・壱岐を襲撃・住民を惨殺、博多に上陸したという大事件である。詳細はこちらを参考くださいませ。

 

「白村江の戦」は学校で習ったが、こんな国家的大事件が名前すら出てこないというのは、日本の学校教育はどうなっとるのだ!!とちょっと場違いに怒ってしまう。

 

あと学校の歴史の授業的な話になると、藤原道長が詠んだといわれる和歌「此の世をば我世とぞ思ふ望月の欠けたる事も無しと思へば」がうたわれた経緯や場面が記述されている。この歌は「小右記」以外には記載がなく(「御堂関白記」にすら)、実資が日記に記したことにより後世の我々がその和歌の全貌を知ることができた、と倉本氏は高評価。

 

俗っぽいネタとしては、藤原道長最期の様子がかなり詳しく書かれていることか。なかなか生々しく、「光る君へ」はそのあたりをどう描くのだろうかと心配になるくらいである。

 

その他、実資自身は腹が弱くてしょっちゅう下痢をしていたようだし、あと痔に苦しんでいた様子(今朝痔重発)も書かれている。

 

という具合に現存6563条からの「抜粋本」とはいえ、現代人が「日記」という言葉から想像するレベルではなく、平安時代の政務・儀式や宮中の様子・風俗、そしてロバート秋山実資の顔が見えてくるのであった(再爆)

 

なお、「光る君へ」についてもネット上で言われているが、「小右記」でも「藤原さん」が多すぎてややこしい。そのためにか知らんが、巻末に関連する皇族を含む藤原家の略系図があり、それを見ながら読むとややこしさもかなり解消される。

 

略系図のほかに、略年表や宮中・一条院内裏図、平安京とその周辺の地図も巻末に収録されている。

 

ちなみに同じ倉本一宏氏の現代語訳で、全16巻の完全版『小右記』(51,920円!!)が吉川弘文館から出版されている。根性とお金のある方はそちらを是非(^^;)