証人尋問・当事者尋問(本人尋問) | 大阪の弁護士 重次直樹のブログ

証人尋問・当事者尋問(本人尋問)

訴訟の一つのピークは証人尋問,当事者尋問(本人尋問)で,おそらく,新人弁護士にとっても中堅・ベテランにとっても,最も体力負担の大きい手続きだろう。準備負担も大きいが,当日・本番の集中力も要する。本当の新人には荷が重く,苦手な人も多いと思う。

 

昨日,交通死亡事故の民事訴訟で,原告ら(遺族ら)代理人として,証人尋問(主尋問)・当事者尋問(原告主尋問,被告反対尋問)を行った。13:30~16:30の予定が,次回期日の設定等も含め17:25くらいまで掛かった。被告は長々と質問をはぐらかし,裁判官が度々介入した。

 

他の仕事のピークと重なり,特に,別事件で尋問前の陳述書提出と重なり,医療面で難しい訴状提出とも重なった。コロナワクチン接種後に頭部から顔面に帯状疱疹が出て,目の周辺やおでこに顔面神経痛や違和感が残り,体調が万全でない自分には,結構,厳しかった。それでも,本番となると,集中力が高まる。ユンケル黄帝液を本番で2本,前日~当日の準備で2本,飲んだ(身体には良くない)。今日は,心身を癒すこと,calm downが優先になりそうだ。

 

※最近会ったコロナ重症患者を扱う循環器専門医の話では,コロナワクチン接種後の帯状疱疹発症は,確かに多い。それでも,重症患者の様子を多数見てきた立場からは,コロナ感染・重症化や後遺症のリスクを考えれば,ワクチンは打った方が良い(ただし,ほとんど重症化しない5歳~11歳は疑問)と話されていた。

 

※※10/8に提出した訴状は,足と肩の両方の後遺障害を医療画像で説明する必要があり,訴状が46ページになった。11/5提出予定だった(尋問優先で延期した)訴状は,脊柱(頸椎~胸椎)のみで前回ほど長くならなかったが,医療画像の説明が必要で,27ページになった(事務局最終チェック中)。仕事が押した原因として,10/20に提出した医療面(後遺障害)の準備書面(23ページ),追加書面(10/29,3ページ)(計26ページ)も大きかった。

 

別事件の陳述書・準備書面に訂正が必要と分かり,3日夜~4日朝はそちらにも時間を取られた。反対尋問の準備は,3日~5日当日朝(特に4日以降)に一気に行った。断続的に睡眠はとったが,2日続けて夜中も仕事をし,徹夜っぽくなった。主尋問の予行演習後,追加申請した刑事記録の謄写が届いたのが4日(申請は先週木曜検察に出向いた),追加甲号証を含め,一番難しい反対尋問(※)の資料・原稿を作り上げたのが5日(当日)朝,事務員相手に反対尋問の予行演習を通しで終えたのが,出発1時間半前,本人と予行演習済の主尋問(証人・原告)について,直前の予行演習を事務員相手に行い,資料整理と尋問内容の最終チェック・修正を終えたのが,出発10分前だった。反対尋問の原稿をパソコンからiPadに送信したのも出発10分前(私はiPadを使って尋問する)。何とか間に合った。本番の体力・集中力も,何とか残せた。

 

反対尋問は,相手方当事者や相手方証人に対する尋問だから,事前の打合せや予行演習が出来ない。また,主尋問で何が出てくるかも分からない。当日の集中力や臨機応変の対応も重要だが,事前準備でも,相手がどう答えるか,複数の想定が必要になる。逆に主尋問は,依頼者側の当事者・証人に対する尋問で,概要を事前に陳述書として提出する必要があり,本人と事前に尋問の予行演習を行う。

 

死亡事故は,メンタルでも辛い面がある。こんなことで人の命が返ってこなくなるのか,命を奪っておいて,この態度はなんだ,亡くなった被害者の人生を思うと不憫で悔しい・・・代理人の弁護士にもいろんな感情が湧く。もちろん,遺族本人はもっと厳しく,打合せ中に泣いてしまう人が多い。故人の生前を思い出したり,交通事故で亡くなったことについて,痛ましく,不憫に思ったりで,涙を拭きながら打合せに応じたりする。

 

今回はドライブレコーダーがあり,事故直後の加害者の様子も映っている。iPadで動画を再生してテレビモニタに表示し,尋問に利用する許可が出た(4月の尋問では,同じく交通死亡事故だったが,テレビモニタ使用の許可が出なかった)。先週,法廷で接続・再生テストを行った。事故直後,自動車を降りて,眠そうなぼーっとした様子でズボンをずりあげ,自分の携帯電話を見つけて,また,戻ってしまう(救助に向かわない)映像をビデオ再生しながら「どうして直ぐに救助に向かってくれなかったのですか」と尋問する事務員相手の予行演習の際(当日午前),疲れの影響もあったのか,涙がこみ上げて中断してしまった。死亡・重傷の複数被害者が出た高速道路の大事故で,被害者の名前を大声で呼ぶ同僚の声も聞こえる中,事故直後,ぼんやりした様子でズボンをずり上げ,携帯電話を見つけて,また運転席に戻ってしまう加害者の所作は,状況との差異・違和感が大きく,また,ビデオ再生のインパクトは強く,本番でも,その部分は声が震えたが(疲れていると涙もろくなる),何とか凌いだ。ただ,遺族(原告)への主尋問の最後で,原告(被害者遺族)本人が回答中に泣いてしまい,自分も最後の質問は終了していたが,もらい泣きして,補充尋問か反対尋問かの最中に鼻をかむ羽目になった。こんなことで命を奪われた,これからという時に,本人は何も悪くないのに,それなのに加害者のこの態度・言動は,と思うと,極めて残念だし,不条理を感じる。

 

ギリギリの制約の中でやり遂げた安堵感,最大の争点で,ある程度,被告の主張を覆して認めさせた達成感,そして,一種の虚しさや徒労感も残った。被告の不合理な言い訳を覆すために,これだけ体力を使う必要があるのか。ドライブレコーダーの映像を見れば,居眠り運転以外,合理的説明がつかないのは,一目瞭然ではないか。真相が分かっても,故人は戻ってこない。他方,ある程度,尋問で認めさせることが出来たのは,珍しい経験だ。通常は,尋問と最終準備書面で,被告主張の矛盾を浮き彫りにするにとどまる。もちろん,加害者が積極的に認めたわけではない。ドライブレコーダーの映像が決め手だった。

 

交通死亡事故では,「死人に口なし」で,加害者が不合理な言い訳を押し通すことが多い。捜査機関も,過失事件だから,交通事故だからと,不合理な言い訳と知りつつ,真相に迫らず,控え目な起訴状・公訴事実を作成することが少なくない。しかし,これが民事訴訟で被害者遺族や代理人が苦しむ原因になる。4月に尋問があった交通死亡事故でも,捜査機関の速度認定が誤っており(他の箇所も含めて,四輪車の計算と二輪車の違いを看過していた),覆すのに苦労した。判決で速度認定は覆ったが,国立国会図書館(関西館,東京の本館)に各1日出張して,二輪車事故の速度認定資料を漁るなど,かなり時間を使った。その別事件では,捜査内容が速度認定以外も加害者に有利に作成されていた。今回は,捜査記録に問題はないが,起訴状記載の公訴事実が真相や映像と一致しなかった。被告人の不合理な言い訳を採用していた。公判維持のための控え目認定だろうが,被害者遺族がその後民事で苦労することを少しは考えて欲しいと思う。

 

私は,死亡事故の場合,民事訴訟に先行する加害者の刑事裁判で,できるだけ被害者参加をするようにしている。その段階で,捜査記録を見て,補充捜査を依頼したり,追加の証拠提出を求めたりできる場合がある。今回も,決め手となったドライブレコーダー映像は,当初,非開示で検察官が証拠申請していなかったが(ドライブレコーダーを出せば,公訴事実と真相との乖離,被告人の言い訳の不合理さが一目瞭然となる),被害者参加代理人として,強く働きかけ,最終的には動画の開示を得ることが出来た。刑事裁判では追加で証拠申請も行われ,裁判で上映もされた。被害者の関係者が大勢傍聴に来ていた。事故発生状況も明らかになったが,事故後の加害者の行動も映っていて,感情的にならずに見ることが難しい。

 

尋問をiPadで行うようになったのは,iPadの音声認識・文字変換の機能が進んでいて,2台のiPadを使い,片方で音声認識も利用して原稿を作り,それを読み上げる予行演習の際に,もう片方に音声認識で再度読み込ませて修正版を作る,といった,今から思えば手の込んだ作業を行ってからだ(当時は書くより早いと思った)。かなり難易度の高い訴訟だったが,何とか勝訴に持ち込めた。依頼ルートからも,どうしても負けるわけにいかない訴訟で,ものすごく時間と体力を使った。結果として,その訴訟で自分の尋問スキルは鍛えられ,大きく成長したと思う。尋問に苦手意識はなく,むしろ得意だと話したこともある。ただ,時間・体力・集中力を要し,一番疲れる手続きであることは変わらない。

 

手続きを終えて,トラック運転手の過重労働が原因ではないか,加害者も被害者ではないか,と同情的に思っていた気持ちが薄れたが,真の原因はそこだという考えは強まった。加害者(トラック運転者)は,事故前の3日半以上(85時間半以上),自宅に戻らず,運転席での仮眠以外,眠っていない。事故27時間前までトラックステーションでまとまった休みを取っていたが,部屋を借りず,運転席で断続的に眠っただけだった(私はステーションでは部屋のベッドで眠ったものとばかり思っていたが,運転席での断続的な仮眠だった)。ステーションを出て27時間後の事故だ。交通事故等を防ぐための「トラック運転者の労働時間等の改善基準」(平成元年告示。仮眠時間を含む拘束時間は原則13時間まで,延長しても最長16時間まで)について,今回の加害者は,全く守っていないし,改善基準の存在自体を知らなかった。使用者である会社は,守るつもりも,教えるつもりも,なかったのだろう。

 

尋問でかなり高まった緊張と疲れを,どう癒し,緩めていくか,今日の課題だ。昨日は事務所に戻って整理をした後,直ぐにジムに行って,軽く泳ぎ,大浴場に入り,レストルームのリクライニングチェアでアイマスクをして仮眠を取った。事務所ビルからジムのビル(ホテル阪急インターナショナルのある茶屋町アプローズタワー)まで徒歩1分ちょっとだ。こういう時,この立地はありがたい。お酒と御馳走という手段もあろうが,アルコールより健康的なリフレッシュだと思う。別件の本人尋問も近づいており,楽はできないが,今日は一旦,緊張を緩め,疲れを抜く必要がある。もう一度,プールと大浴場に行って,疲れを洗い流したい。