新型コロナウイルス問題㉜ 免疫学と自然免疫,BCG効果,抗体検査 | 大阪の弁護士 重次直樹のブログ

新型コロナウイルス問題㉜ 免疫学と自然免疫,BCG効果,抗体検査

平野俊夫教授の寄稿(2020.5.28)

インターロイキン6の発見者・解析者である平野俊夫教授(元阪大総長)の寄稿が,日本医師会COVID-19有識者会議のサイトに公表されている。

「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はサイトカインストーム症候群である」 → こちら 

 

【概要】

・新型コロナはACE2を受容体として感染,自然免疫系とAngⅡ-AT1Rを介して,インターロイキン(IL)6などの炎症性サイトカイン産出を増強

・新型コロナによる重度肺炎→致死的な急性呼吸促迫症候群(ARDS)は,サイトカインストームによる。

・抗IL6受容体抗体トシリズマブ(アクテムラ)やAngⅡ-AT1R阻害剤が有効

 

★(平野教授)日本の新型コロナ感染者・死者が少ない理由★ 

平野教授は,可能性として2つを挙げる。

1 風邪コロナによる免疫・・・T細胞(免疫交差)

2 BCG予防接種による免疫・・・自然免疫の強化(訓練免疫)

 

なお,BCG予防接種により強化された自然免疫(訓練免疫)に関する宮坂教授の記事(→こちら)は,西浦教授が自説や被害見積もりの修正に向かう契機となった。→ こちら

 

免疫学の基礎知識,自然免疫と獲得免疫

免疫学の基礎について,私は「カラー図解 免疫学の基本がわかる事典」(鈴木隆二,西東社)を使っている。図が分かりやすく,お勧めです。私自身は,キンドル版と書籍の両方を使っている。キンドル版はUnlimitedを使える方なら無料で読むこともできる。

 

 

宮坂教授の記事や,平野教授の寄稿等を理解するには,自然免疫と獲得免疫(適応免疫),抗体,T細胞,サイトカインなど,免疫学の基礎知識が必要になる。これについては,例えば,上記書の21頁の図が極めて分かりやすいので,以下に引用する。

 

宮坂教授の指摘は,ファーガソン教授・西浦教授らのモデルでは,獲得免疫(適応免疫)を前提としているが(下図の右),実際には自然免疫と獲得免疫の2段構えになっている,というものでした。

(カラー図解 免疫学の基本がわかる事典 21頁より) 

サイトカイン(インターロイキン(IL)もその一種)は,細胞から分泌される物質で,他の細胞に影響を与える。例えば,ウイルスの侵入に対して,上図右上のヘルパーT細胞からサイトカインが分泌されて,B細胞の抗体産出を促したり,好中球(白血球)を集めたりする(上記書籍では23頁に分かりやすい図がある)。

 

なお,これらの用語のイメージについては,アニメ「はたらく細胞」が面白い(私はUnextでみました)。未熟T細胞が樹状細胞の助力を得て活性化され成長していく部分は印象的でした(アニメの原作コミックは以下)。

 

 

また,審良静男教授がガードナー賞を受賞したのは,自然免疫・TLRsの獲得免疫への影響に関する研究が評価されたものです(→こちら)。自然免疫と獲得免疫は,別個独立に作用するのではなく,相互に影響しており,自然免疫が主役として獲得免疫を誘導しています。

「2011 年Gairdner 国際賞における審良静男の受賞理由の解説」より →こちら

 

自然免疫とBCG効果

自然免疫が重要であることは,免疫学の近時の知見であり,また,BCG予防接種の効果を理論的に裏付けるものです(宮坂教授,平野教授のような免疫学のトップクラスの教授がBCG効果の可能性を指摘しています)。

 

既に,2003年には,BCG予防接種を高齢者の肺炎予防に活用できることが,大類孝現東北大教授らによって発表されていました。

 

2003.3.20日経メディカル記事 

東北大の大類氏の2003/3/15発表に関する2003/3/20の記事 → こちら

 

2005.1 日本老年医学会雑誌 42巻1号 2005-1

大類孝氏ら東北大の研究グループによる論文  → こちら

 

・ADL低下高齢者155名を対象に研究

・ツベルクリン反応で陽性者・陰性者を区別

・さらに,陰性者をBCG接種させた群と,させない群に区分

・上記3区分で追跡調査

【結果】

・ツ反陰性群(BCG非接種)・・・44名中19名(42%)に新たな肺炎発症

・陽転群(陰性→BCG接種で陽転)・・・41名中6名(15%)に新たな肺炎発症

・ツ反陽性群・・・67名中9名(13%)に新たな肺炎発症

 

現存のBCGワクチン(東京株)でも,陰性者(西欧・米国・豪などに多いとみられる)には,相当な効果が出る可能性を感じます。また,より,新型コロナに適したワクチン開発が,大阪でも進んでいるようです(大阪は免疫学のメッカのひとつ → 次項ご参照)

 

免疫学の重要性

以上のように,新型コロナ問題について,キーとなる学問は免疫学でしょう。

幸い,免疫学は日本のお家芸と言われるほど,日本の得意分野になっています。

 

・免疫学は日本の「お家芸」 利根川進さんら権威がずらり(朝日新聞) → こちら

※北里&ベーリング(抗体の発見)

※利根川進(ノーベル賞,抗体形成と遺伝子組み換え)

※本庶佑(ノーベル賞,発見したT細胞PD-1活用によるがん治療→オプジーボ)

※石坂公成(ガードナー賞,アレルギー発症のカギとなる抗体発見)

※岸本忠三(元阪大総長,インターロイキン6発見→アクテムラ(トシリズマブ))

※坂口志文(ガードナー賞,制御系T細胞発見)

 

・世界に冠たる大阪の免疫学 → こちら

※坂口志文(ガードナー賞,制御系T細胞発見)

※審良静男(ガードナー賞,自然免疫・TLRsの獲得免疫への影響)

※平野俊夫(前阪大総長,インターロイキン6発見→アクテムラ(トシリズマブ))

 

 

抗体検査の効用と限界

抗体検査には一定の感染者測定効果があるとしても,限界もあることは,宮坂教授らが指摘されている通りです。

 

1 検査キットの正確性による限界

2 そもそも,抗体ができる前に,他の機序でコロナを撃退している可能性

(1) 自然免疫 ・・・ もともと自然免疫が強い若者,BCG予防接種による訓練免疫

(2) 獲得免疫のうち,キラーT細胞・・・風邪コロナ罹患者

抗体ができるのは,マクロファージ→ヘルパーT細胞→B細胞→抗体のルートだけです。

(カラー図解 免疫学の基本がわかる事典 21頁より) 

 

吉村知事と,大阪・関西・日本の研究者に期待

吉村知事は,感染爆発阻止,医療強化(医療崩壊阻止),社会経済活動の維持,と3方向にバランス良く目配りをしながら,ワクチン開発にも力を入れている。

 

吉村知事を応援したい。

 

ワクチン開発についても,免疫学に強い大阪・関西を含む日本の研究者の活躍に期待したい。

 

(大阪府新型コロナウイルス助け合い基金への寄附申込書)

 

 

免疫学の,より詳しい書籍

世界的な権威書,2018第3版,税前9800円とこの種の書籍にしては安い,誤植に注意

 

 

スタンダードなテキスト,定価税前7500円(第3版),前記宮坂昌之教授が編者