失敗の原因その3 犬の気持ちを理解していない
「一般的によく行われているしつけには2通りある。ひとつは「罰を与える」こと、もうひとつは「褒める」こと。今まであなたが行ってきたしつけは、「罰を与える」「褒める」この2つの内のどちらか、もしくはこの両方だろう。いろいろなテクニックがあっても、このどちらかに分類される。それに対して、犬はどう反応するかと言うと、こういうことだ。」
(罰を与える場合)
飼い主…暴力、ショックを与える、無視する
↓
犬 …飼い主に従う
理由:嫌なことから逃れたいから、怖いから
気持ち:ビクビク、オドオド、しょんぼり
(褒める場合)
飼い主…言葉で褒める、なでる、おやつで誘導する
↓
犬 …飼い主に従う
理由:ご褒美がほしいから
気持ち:うれしい、ラッキー、かけひきを楽しむ
「これは飼い主の行動に対する犬の反応を利用して、犬に飼い主の望む行動を取らせる、つまりアニマルリアクションだ。ただ、これで成功ではないんだよ。なぜなら、僕たち動物には心があるからさ。犬の僕から言わせてもらうと、どんなことがあっても「罰」は与えてほしくない。嫌なことをされないように学習してしぶしぶ服従するだけだ。当然ストレスが溜まるよ。「褒める」ほうは歓迎だ。だって好きな物ももらえるし、飼い主には喜んでもらえるからね。でもね、僕たちはバカじゃないんだ。人間のオファーに対して、まずは条件提示をしてもらう。見合えば従う。これは条件付の服従だということだよ。」
美咲は何だか淋しい気持ちになった。これではどっちが上だか分からない。
「僕たちにかけひきを教えたのは人間なんだよ。僕たちは、本来もっと大きな愛情を持っているんだ。ペットが飼い主のことをどれだけ愛していると思う?あなたたちの考える10倍、いや100倍だ。それをもっと知ってほしい。そうすれば、かけひきなんてする必要がないんだよ。僕たちは飼い主のために役に立ちたいと思っているんだ。だから本当は、飼い主が望めばそれに応えたいし、飼い主の悲しむことはしたくないんだよ。」
「そうだったの。チョコもまだ私のことをそんなふうに思ってくれているかしら?」
「もちろんだよ。」
「飼い主とペットが信頼関係で結ばれていて、愛を与え、愛を受け取る。ただ、相手の喜ぶ顔を見ることができたら幸せ、そんな関係になれたらいいと思わない?」
「思うわ。どうすればなれるの?」
「愛を受け取りたいなら、まずはあなたから愛を与えることだ。」
☆
家に着くなり、美咲はチョコを抱き上げた。
「チョコ、今まで私は自分の都合でチョコのことを怒ったり、褒めたりしていたのかもしれない。今までちゃんと見てあげられなくてごめんね。チョコのこと大好きよ。」
チョコは、不思議そうな顔で美咲を見つめた。チョコに噛まれて以来、こんなふうに抱っこするのは初めてだった。
「どうしたんだ?何かあったのか?」
夫が不思議そうに美咲とチョコを交互に見た。
「うん。いつものお散歩中に仲良くなった人がいて、チョコのことで相談に乗ってもらっているの。それでねフラン…」
「フラン?」
「あ、そうそう。フラン…ス人の先生に習った犬と仲良くする方法っていうのを教わっているのよ。(危うくフランチェスコと言いそうになってしまった。)」
「ふーん。いいお友達ができてよかったじゃないか。」
夫にはフランチェスコのことは秘密にしておきたかった。
つづく
