制約主導アプローチ その5 「注意フォーカス」 | 井上正幸のブログ

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これまで制約主導アプローチの原則である「代表性」「タスク単純化」「バリアビリティ」「制約操作」について書いてきた。
簡単に書くと、キーとなる知覚要素を練習するために、タスクを分解するのではなく、タスクを単純化し、多様なスキルパターンを身に付けるためにバリアビリティのある練習を行い、制約操作によってバリアビリティのレベルを一定に保つ。

伝統的なアプローチでは、動作を安定させることを目的としているので、タスクを分解し、一定の条件下で同じ動作を反復することを求めるが、制約主導アプローチで、自ら情報を探索し、新たなスキルパターンへ「相転移」させて、「自己組織化」へと個人やチームを導く。

ラグビーで例えば、「数的優位な状態でのAT」の課題解決に、「3対2」のゲームを分解した練習をするのではなく、「BDを速くリサイクルしてDFのポジショニングが間に合わない状況で攻撃する」という競技のキーとなる知覚要素をベースにした、ゲームを単純化した練習を作る。

単純化とは例えば、人数を減らした「small side game」で、ATはボールを動かしてBDを作り、DFがポジショニングする前に攻撃を連続するといったゲームの文脈に沿った数的有利な状況を練習する。
こうした状況で同じスキルパターンしか見られなくなれば、今度は「2パス以内で捕まえればターンオーバー」とDF側への制約操作によってバリアビリティをあげて新しいスキルパターンを探索させる。
この制約操作は、DF側のラインスピードを上げさせてパスでボールを回すのを困難にさせ、「キックパス」という新たなスキルパターンを生み出す。

指導者はこうした原則を使って練習を作ることができるが、「サポートのコース」や「パスの判断」といった「動作(内的)」へ注意を向けさする指導を行うとプレッシャー下で運動の崩壊を引き起こしやすいと言われている。

普段から内的フォーカスしていると、プレッシャーでさらに内的にフォーカスが向いてしまう現象が起こり、何も指示しないよりも時に悪い結果をもたらす。
このことを「明示的モニタリング仮説」といい、伝統的アプローチは動作を安定させることを目的とするので、動作の内容や動作そのものを規定し、フォーカスは内部へと向かう傾向がある。

制約によって運動を学習できると外的なフォーカスに注意が向く。
学習者の運動内容に対するコーチングを減らして、制約を満たすことに注意を向けさせれば内的なものから、自身の動作が周囲の環境に及ぼす影響、つまり、「動作の結果や機能」へとむき、外的フォーカスが促進される。
例えば、「サポートを速くしろ」と言わずに、「ATを優位にするためにBDを速くリサイクルする」という目的や「BDのリサイクルが遅いからATが優位にならない」という結果を知ることで「サポート」を速くなるための機能的なサポートコースやタイミングを探索する。

「スキルは教えられない」という前提に基づいて、個人にとって機能的な運動パターンを見抜けないので、制約によって本人が機能的な運動パターンを探索できるのでコーチは「制約のデザイナー」になるべきである。