NZ対南ア | 井上正幸のブログ

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NZ対南アレビュー。

序盤からキックを効果的に使い、テリトリーを優位に進めるNZ。
敵陣でもキックを使い、ゴール前まで侵入する徹底ぶり(パス、キック比率2対1。一般的な強豪チームで4対1。ちなみに南アは3対1)。
NZは、真ん中のポッドでブレイクダウンを作って順目に攻撃し、ウイングが下がってる場合はセカンドレシーバーにパスし、ウイングを上がらせてからゴール前へタッチキック。ウイングが上がっていてタッチライン際にフルバックが張り付いてる場合は、ファーストレシーバーが間を抜く強めのグラバーキックを蹴りこむ。

最初のNZのトライも敵陣ゴール前へタッチキック。南アのラインアウトからタッチキックをクィックスローでカウンターし、9シェイプ、10シェイプとミッドフィールドまでボールを運んでブレイクダウン。そこから逆サイドに中途半端にアンブレラしたウイングのハバナの外側へボールを運んだポッド。
このポッドは、決勝のオーストラリア戦でもやっており意図して行ってるものである。

テリトリーもポゼッションも有利に運ぶNZ(テリトリー72%、ポゼッション65%)だが、自陣でオフサイドなど自分達のミスでスコアを奪われ7対12でハーフタイム。

ラインアウトはNZがプレッシャーをかけてターンオーバーしてテリトリーを優位に運び、スクラムは南アがプレッシャーをかけ、ターンオーバーだけでなくスコアも奪う展開。
後半は、NZ自陣でのつまらない反則を減らし、ミスによる失点を減らす。


2つ目のNZのトライも敵陣からキックでゴール前に侵入し、南アのミスから近場を9シェイプで攻撃し、南アの防御をグルーピングして外側へ展開しトライを奪ったもの。


南アの行ってるシェイプは、基本順目への移動攻撃なので、ゲインできないと攻撃側の移動が物理的に間に合わなくなり、攻撃側が数的不利になっていく。
NZは、南アの9シェイプにプレッシャーをかけることでこの状況を作り出し、南アの攻撃を機能不全に追い込んだ。
本来、9シェイプにプレッシャーがかかると、バックドアのスタンド、ポラードが仕掛けて、プレッシャーのかかってるインサイドとかかってないミッドフィールドのトランジションギャップを攻撃するのだが、そのプレイはほとんど見られなかった。


最後のチャンスだった、南アの敵陣でのラインアウト。モールを組むも、NZにタッチ側へプレッシャーかけられたので、南アはタッチ側へ逃げて出したモールもNZに受け止められてタッチ側へ剥がされモールを壊された。その後の孤立した9シェイプにプレッシャーかけられターンオーバー。タッチに蹴りだした後のラインアウトをNZにスティールされ、南アは自陣に戻され最後のチャンスも掴めなかった。


NZは、南アの9シェイプにプレッシャーをかけるという防御手段で南アの攻撃の芽を完全に詰んで、キックを敵陣でも使い、敵陣でセットから攻撃するのではなく、敵陣でアンストラクチャーを作るという方法で南アの防御を攻略した。


「キックは攻撃権の放棄」としてしか考えられない国内における「ゲームの組み立て方」と、キックを「敵陣へ侵入する手段」から「敵陣でのアンストラクチャー(カウンターやターンオーバー)を作り出す手段」として用いることとでは、ラグビーのゲームとしての魅力に大きな差を感じる試合だった。