以前、録音しておいた対馬民謡「まだら節」を聴く機会があった。
対馬のまだら節は神事や結婚式などの特別場所で歌われる格式のある
祝い唄。しかし近年は高齢化や過疎化などで歌われることもないという。
某が最初に聴いたのは、厳原町豆酘の伝統行事「赤米の頭受け神事」
だった。深夜、頭(とう)仲間の座敷天井に吊るされていたご神体の
赤米の籾俵は下ろされる。そして次の頭仲間の座敷天井に向かう。
天井から下ろされた俵は頭仲間に背負われて座敷を出る。その際に
門出を祝って「まだら節」が歌われていた。深夜の静寂に染み入るような
荘厳な歌声は秘密のベールに包まれた神事に相応しかった。その後の
神事にはテープレコーダーの音声が用いられた。
まだら節は佐賀県唐津市鎮西町の馬渡(まだら)島が発祥地とされている。
歌は日本海ルートで広がり富山県や石川県などの北陸地方にまで伝播した。
また鹿児島県でも歌われており全国的に流行した時期があったとみられる。
対馬に伝わる歌詞は「祝いめでたの若松様よ」と短いのは他所と同じ。
中世、対馬と北陸は活発に交流が行われていたようだ。その証として
島に残る宝篋印塔の多くが福井県高浜町日引(ひびき)産とされてる。
島内の石塔を調査した石造物研究家の大石一久氏によって確認された。
また、富山県輪島市の舳倉島は海女さんの島。かつては夏場の漁期に限り
海女さんが島に渡り小屋掛けしてアワビやサザエなどを採取していたという。
島には石搭が伝わっており、対馬のヤクマ搭と類似していることから、対馬の
海女さんが石を積んだのだ、と推理する人もいる。
富山県や石川県などに、まだら節が継承されたいることは船乗りや商人などに
よつて伝えられたのであろう。同じまだら節でも歌詞や節には若干の相違は
あるだろう。各地のまだら節を聴き比べてみたいと思う。