古代,白嶽は外洋を航海する船の航路標識であった、という仮説をたてた。

現代の灯台である。近年、福岡県宗像市沖の沖ノ島は世界遺産に指定された。

その沖ノ島に白嶽があることは意外と知られていない。しかも航海安全の

神様とされているが、根拠は明らかにされていない。

 

 ところが松浦静山の『甲子夜話』に注目すべき記述があった。白嶽に

鎮座する神の伝承で、航海の守護神としている。


  平戸は古の庇羅の島である。南北に十里余り〈五十町程〉、南端は

  志々伎神社がある。平戸城は北方の海辺である。また極北に山がある。

  山上に白岳祠〈小石祠〉がある。この神もまた霊がある。商舶および

  余船に至るまで、平戸を望んで来る者は、時があって夜霧が四方塞いでも、

  指所を弁ずるなかれ。この時、船中に於いて、かの山祠を祈念すれば、

  必ず山頭に火光を見分けることが出来る。船は即これを認めて行けば、

  すなわち平戸に達する。全く神の霊火と伝わる。!

  

とある。

 平戸島の最北端に山がある。山頂の白岳様の祠は小石で作られたものである。

白岳の神は霊があり、商船やその他の船が平戸を目指す場合、夜霧が四方を包んで

方向が分からなくなっても目的地を案ずることはない。こんな時には船中から白岳の

神様を祈念すれば必ず山頂に火光を見ることができる。船を光の方向に進めると、

平戸に導かれる。霊験あらたかな神様の霊火と伝わっている。

 

 江戸時代の平戸の住民は白岳の祠を航海安全の守護神として信仰していたことが

分かる。白嶽(岳)は平戸や沖ノ島の他、対馬や五島、佐世保市などの北部九州の

海岸部に散在している。このことは、白嶽を信仰する古代海人のネットワークの

存在が考えられる。海商らは白嶽という共通の航路標識を設けて大海原を航海して

いたとみられる。そして頂には白嶽の神様が鎮座していたのである。

 

 古代から、朝鮮半島南部から対馬や壱岐、沖ノ島、宗像、平戸、五島などの

住民は船で縦横無尽に交易していたのであろう。海人たちは白嶽の神様の

加護を信じて大海原に挑んだのである。白嶽の神様は、海人らの

守護神であった。現在も白嶽神社は対馬市や佐世保市に鎮座している。