【感想文】『ウルトラマンタロウ』のムルロア回を観ました(前編)
今回取り上げます作品は1973年に放映された特撮ドラマ『ウルトラマンタロウ』の第24話「これがウルトラの国だ!」でございます。先週からYouTubeのウルトラマン公式チャンネルで配信されていましたので視聴しました。ちなみに24話は25話と連続エピソードになっています。いわゆる前後編の前編です。




そんなムルロアが登場する本編なんですが、本編はかなり重い話になっています。『ウルトラマンタロウ』と言いますとウルトラシリーズの中でもコミカルな話が結構多いのですが、そんな『ウルトラマンタロウ』において24話と25話は非常にシリアスでシビアな話です。
https://cocreco.kodansha.co.jp/telemaga/news/feature/kaijubiyori/6eiDs?page=2
冒頭いきなり地球から遥か離れた惑星で化学兵器の実験が行われるところから話は始まります。そして開始直後にその惑星は化学兵器によって爆散します。地球人のエゴによって地球から遥か離れているという理由だけで惑星が爆散されるという理不尽なシーンです。ちなみにその惑星の名前はムルロア星です。「ムルロア」で検索するとわかりますが、南太平洋のポリネシアにあるムルロア環礁から取られたネーミングです。フランスが1966年から1996年まで核実験を行っていた場所であり、『ウルトラマンタロウ』放映当時にもそれは行われていました。化学兵器によって爆散するムルロア星はそのストレートなネーミングからもフランスに対する批判であると分かりますね。そんなムルロア星が爆散したことにより大量の宇宙蛾スペースモスと宇宙大怪獣ムルロアが爆誕しました。そして遠路はるばる地球に来襲します。まずスペースモスによる地球人に対する逆襲が始まります。スペースモスの大群が日航機を襲撃して墜落させるのです。地球から遥か離れた場所からわざわざ地球に向かってきて地球の航空機を襲撃して墜落させるのですから意思を持って地球人に対する憎悪を抱いて行動しているとしか思えないのでそこが怖いところです。怖いと思わされるとともに「宇宙には見た目は昆虫のようだが高い知能を持った生命体が存在する」とか「化学兵器の実験により高い知能を持った思考する昆虫のような生命体が生まれた」とか「身体と脳の大きさが知性に関係する理屈が宇宙では存在しないのか」とかいくらでも話を広げられそうなところにウルトラシリーズの奥深さを感じさせられました。
話を本編に戻しますと、今回のエピソードには主人公であるウルトラタロウこと南光太郎のご近所さんである六人の兄弟が登場します。その六人の兄弟とウルトラ兄弟(1973年当時は六人)と結びつけて話を進めていく展開となっています。その六兄弟なのですが、先ほど書いた日航機襲撃による事故により両親を失って孤児になるというシビアな展開になります。かつてわたしが幼少期に再放送で観た時も「えーっ!」と思いましたが、時代の流れでどんどん視聴者に優しくなる子供番組を視聴してきたアラフィフ中年になってからその展開をさらにその無慈悲さに打ちのめされます。ちなみにその六兄弟は「父さんと母さんはいなくなったけど六人で力を合わせて生きていくんだ!」と決意を新たにします。最年長でも中学生の兄弟たちが覚悟を決めるところが昭和の子供は強くて大人だったんだなあと感動してしまいました。その中の小学生の弟が「そんなの無理だよ!」的に家を飛び出して行くシーンがあったので少し安心しました(苦笑)。両親といきなり死別してそんなに簡単に切り替えられるほど子供は強くないというのは昭和も平成も令和でも同じですよね。
そして飛び出していった弟を探して見付けたところでスペースモスの大群と遭遇します。そしてスペースモスの大群が飛んでくる先を見ると…大怪獣ムルロアが!40年以上ぶりにそのシーンを見ましたが、はっきり言ってそのシーンがカッコ良すぎてシビレました(苦笑)。スペースモスの大群を従えて佇むムルロアの姿が余りにも神々しすぎます。そして間髪入れず溶解液で地球人に対する逆襲を開始するムルロア!やはりムルロアは何年経ってもカッコ良すぎます。
そして地球防衛関係者たちによる抗戦からの南光太郎が変身したウルトラマンタロウとの戦いになるわけですが、ムルロアは凄まじいパワーでタロウを圧倒してあっさり変身解除状態に追い込みます。その後体内から大量の黒煙を撒き散らしその黒煙は瞬く間に地球全体を覆い尽くし、地球は暗黒の星になり地球人は絶望に打ちのめされて…という展開が5分くらいで進行するのです。悲惨なシーンなのですが驚異的スピードで地球人に対する逆襲を進めていく圧倒的シゴデキなムルロアの姿に心が震えました(苦笑)。悲惨なシーンなのですがもしもわたし自身がムルロア星の住人だったとしてこの場面を見ると「地球人の自業自得」なのでムルロアを単純に「悪」として見れないんですよね。
結局この話で受け止めるべきメッセージというのは「繁栄のために他者を犠牲にすると新たなる犠牲を生む」ということだと思うんですよ。先述の六兄弟の両親を含む日航機の乗客やその他の犠牲者は惑星ムルロアにおける化学兵器の実験が無ければ亡くなっていないわけでムルロア星の生けるものたちとともに地球人のたちも化学兵器実験の犠牲者であるというわけですね。己の幸福が他者の犠牲によって成り立つものであってはいけないという気持ちは強く持ち続けるべきだと思います。
そして話は「後編に続く」わけですが、話を2話にわけたのは大正解だと思いました。じっくり丁寧に描くべき話だからですね。ムルロア星側が一時的にでも勝利して、不安しかない状態で余韻を残しまくりつつ一週間…というその間でいろいろ考えますからね。最終的にウルトラマンタロウが勝つのは分かってるんですけど単純な勧善懲悪的な話ではなくて、双方の立場で考えてしまう話ですね。「地球人は傲慢すぎる!」とか「ムルロアもスペースモスも犠牲者だ!」という年齢を重ねて観てもいろいろ考えさせてくれる話ですよね。かなり興味深くいろいろ考える時間を過ごせました。ウルトラマン公式チャンネル様ありがとうございました。そしてその後編と言えるエピソードである第25話も配信されるということです。ウルトラマン公式チャンネル様本当にありがとうございます!
ということで続きは後編配信後に投稿したいと思います。読者の方お付き合いありがとうございました。また次回です!
【終劇】
〈制作スタッフ〉
山崎 義視(AD)
〈中の人〉
葛井 徹(創世者)
