第4脳室にできた脈絡叢脳腫瘍
 
それが夫の脳腫瘍の名称らしい。脈絡叢脳腫瘍は小児に発症する率が高く、成人ではかなり珍しいらしい。
 
4㎝大の異物を脳内に抱えていた夫。摘出する前のMRI画像でそのでかさにビビった私でしたが、その脳腫瘍の周りの浮腫みもひどくて、なんていうの?もうぐっしゃぐしゃなんだよね。
 
脳って正中で右と左に分かれているけど、左にできた脳腫瘍が周りの組織を圧迫して押し出している形になっていて、正中線が右によっていびつな形の脳みそに変形。
 
脳腫瘍も一体いつから夫の頭の中にいたのか知らないけど、徐々に徐々に大きくなり脳実質を圧迫し、以前も書いたけど、脳腫瘍が発覚する1年位前からかなり健忘症状が強く出ていた夫。とにかく忘れる。短期記憶の保持ができない、同じことを何度も繰り返して聞く志村けんのギャグ状態で私もイライラしっぱなしだった。
 
まぁ、今となれば脳機能障害だったんだろうと納得できるけど。
 
左脳にできていたので摘出後は計算ができなくなったり言葉が出てこなくなったり、摘出部位によって機能障害が出ますと散々教授様に脅され(説明責任を取ったとも言える)ましたが。
 
脳細胞は20歳を過ぎればどんどん死んでいくなんて、今の世の中それは常識ではなく、回復するか、側副路のような、損傷した部分をカバーするような新たな機能が出てくるとか、最近の研究ではどうやらそっちの方が定説らしいですね。何かで読んだ話なので知りたい人は詳しく自分でお調べください。
 
脳機能の回復といえば、私は以前伊豆半島で某リハビリテーション病院で派遣ナースとして働いていたことがあって、とある患者さんに出会って、人間の脳機能回復の奇跡を目の当たりにしたことがあります。
 
始めて会った頃のその患者さんは高度の脳機能障害で、少しだけ動く指先のジェスチャーだけで頭痛がしているとか、していないかとか、そういったコミュニケーションしか取れていなくて。ほぼ寝たきりで食事も胃ろうから摂っていました。
 
病院スタッフの働きかけやリハビリを、急激な回復はしませんが、数か月~年単位で行っていって、少し発語が出てきて、ご家族の結婚式に介護タクシーで参加して、そこで自分でスプーンを持ってご飯を食べちゃったんです。
 
それ以降はものすごい回復を見せて今は自力で食事を食べていますし、ご家族とも普通に話ができている。車に乗って外食したり、もちろん献身的に支えているご家族あってでそこですが、今まで脳機能障害が残ったら回復しないで一生寝たきり、と思い込んでいた私の常識を覆す、希望を与えてくれる患者さんとの出会いがあり、私は人間の機能回復力って本当に素晴らしいな、って感動したのを覚えています。
 
今でのその患者さん、ご家族とは交流を持たせてもらっており、夫のお店にもご飯を食べに来てくれていたりしていて、私が勤務していた頃とは大違い、すごくおしゃべりで冗談もよく言っています。
 
夫も脳腫瘍摘出直後は計算ができなかったり、被害妄想が強かったり、思ったことをなかなか言葉にできないというか、組み立てができなかったんだと思います。妻の私が強すぎて、そして面倒見がよすぎてかどうか知りませんが、受診の時も、夫が電話口で誰かに何かを説明する際も言葉が出てこないことに私がイラついて私が説明したり、電話を代わってもらって説明するようなことも多々ありました。
 
まぁ、でも今反省するのはもう少し待ってあげても、次の言葉が出てくるまで私が先回りしないで「待つ」ことができればよかったのかなって思います。普段の業務の中でも認知症の患者さんとか、脳梗塞後で高次脳機能障害のある患者さんとか当たり前のように接している私ですが、忙しい業務の中で仕事優先で、相手が一生懸命話して伝えようとしていることを待てずに「〇〇なんでしょ?」と先回りして言ってしまったり、ご本人は一生懸命食べているつもりでもこぼすからとか遅いからとかそういった理由で食事介助をしてしまったり。
 
高次脳機能障害の夫の脳機能回復を妨げていたのは私だったんじゃないかと思うできごとが最近ありまして。
 
先日一過性虚血を起こして一瞬半身麻痺が出た夫を地元の循環器専門病院に連れて行ったとき、病状説明を時系列で夫が医師にしたのです。
 
いつもなら「あーっと、えーっと」と言葉が出てこなかったり、頭の中で時系列に物事の組み立てをするのに時間がかかるので私がちゃっちゃと医療用語を使って医師や看護師に手短に伝えてしまうのですが、その時夫はちゃんと「12月27日の夜、いきなり手足がしびれて分くらい続いて、立てなくなりました」とその後も多摩総のERに行ったこと、脳出血や梗塞が否定されたこと、自分の言葉で最初から最後まで医師に説明ができたのです。
 
いつもなら「もう、あれも言い忘れている、前後がつじつま合っていない、私が説明しなくちゃ」で横から説明を追加していた私ですが、ちゃんと簡潔に夫が人に事象を伝えられている!脳機能の回復を実感できた瞬間でした。
 
MRIではまた脳の浮腫みは残っているし、イーケプラも継続で毎日飲んでいるし。ダメージを受けた脳実質はそう簡単に修復されないなぁといった感じです。新人の頃、医師に腸管の浮腫みは術後そんなすぐに取れない、3か月以上かかる人もいると言われて、え?そんなに臓器の浮腫みって回復遅いの!?って驚いたことがあります。脳実質も本当に、数か月単位、あるいは年単位での回復を待つしかなさそうです。