予約していた宿に泊まれなくなり、私は、まったく予定していなかった小さな民宿に泊まる事になった。

 

宿の裏には、海がひろがっていた。

 

私は、荷物を降ろし、裏の防波堤から降りる階段に腰をおろして、海を眺めた。

 

宿を紹介してくれた、食堂のおばぁが笑顔で声をかけてくれた。

 

 

沢山はしゃべらなかった。

 

仕事に疲れて旅に出た私の気持ちを、察してくれているようだった。

 

以心伝心、という感じだ。

 

 

その宿には、観光客はいなかった。

 

泊まっていたのは、石垣から来た、土木工事の作業者ばかりだった。

 

皆親切で、一人まぎれ込んだナイチャーを歓迎してくれた。

 

 

そして、その宿には、昼間は近所のおばぁ達がゆんたくしに集まり、夜にはまたまた近所の男たちが酒を飲みに集まり、いつでも誰か地元の人がいた。

 

私は、数日その宿にいるうちに、その人達の人間関係を覚えてしまった。

 

そして彼らも、あの宿にいる人、という事で、私の事を覚えてくれた。

 

 

もし、観光客向けの宿に泊まっていたら、地元の人達と親しくなる機会なんて、なかっただろう。

 

あれから20年たつが、私はいまだに、この時出会った人達との交流がある。