フルスクラッチ…この世に無いものを作り出す、まさにホビーの極み。小さい頃、模型誌の中で読んだフルスクラッチという言葉は、特別な響きがありました。
はっきり言います。すぐにできるようになるものではありません。しかし諦めずに…誰でも初めからできるわけではありません!経験(失敗すること)と熱意が大切!
ちょっと難しい内容になるかもしれませんが、読むだけでも面白い記事になるよう頑張ってみます。
今日は下準備。
これが大切です。
●原寸図をつくる
建物の自作のためにはまず原寸図をつくります。これが無いことには始まりません。
今回の天秤櫓では、歴史群像名城シリーズの「彦根城」から図面を引きます。このシリーズはお城の基礎資料としてはとても重宝しますので必携です。
右下のスケール。これが大切。
今回は天守に合わせて200分の1で製作します。(童友社の彦根城は1/280と表記されていますが実際には1/200に近いのです)
ここで私の苦手な算数です!電卓の準備を。
一尺=303mmで計算します。
この図面の10尺のスケールを定規で測ると約4.5mmです。
10尺=303mm×10=3030mm これが4.5mmになっている。
模型は200分の1でつくる。
3030mm÷200=15.15mm
15.15mm÷4.5mm=3.3666…
ということで、歴史群像の図面を3.37倍すれば200分の1の図面になります。
コピー機に入れて337%で拡大コピーすれば200分の1の原寸図の完成です。
●図面を調整する
正確さを目指す場合はこのまま作り始めます。
しかし拡大してみられたら分かりますが、天秤櫓、大きい!というか長い!
今回はNゲージのレイアウトに組み込むジオラマで50センチ四方というベースサイズが指定されています。ですので、正確さは優先せず、情景としてのまとまりを優先します。
ここで建物を切り詰めていきます。
この際、建物の特徴は全て残すことが大事です。
天秤櫓では門から向かって右側が短く、左側は長い。この他窓の数やその間隔の特徴はそのままに図面にカッターを入れて切り詰めます。
切り詰めたところ。
全ての図面に対して切り詰めます。
図面によって長さが違ってしまわないように、定規を当てながら正確に縮めます。なぜひっくり返して合わせているかはお分かりですよね…?
天守とも大きさを比べながら不自然でないか確認します。
もとの図面と比べるとこれだけ小さくなりました。
側面の窓の位置はもう少し右にした方がいいですね。
私も常々考証が〜、とか図面が〜と言っていますが、こういうアレンジの作業は、人間の感覚の作業なので、機械には判断できません。手づくりならではですね。
模型は面白いもので、本物に忠実にしようとすればするほど、作者の個性が無くなっていきます。これはとても深いテーマです。古くから守破離という言葉もありますが、人の心にうったえる作品を生み出すためには、実物を破り、離れる部分も必要になってくるのかな、と今の段階ではこれくらいの言葉でしか表せません。
今回つくる天秤櫓の原寸図が用意できました。
●組み立て工法を構想する
図面ができたら、どのような材料で、どのような構造で、どのような組み立て方をするか構想します。
隅々に至るまで組み上げ方がイメージできなければ完成しません。もちろん、実際の工程でうまくいかなくて方針転換することもありますが、初めの段階で完成像をしっかりイメージしておきます。
私は天秤櫓が3Dで頭の中をくるくる回って、パーツがバラバラの状態から集まって天秤櫓の形になるのをイメージできるようになるまでは製作を始めません。
熊本城の模型の時に気付かれた方もおありかもしれませんが、私の建物の組み上げ方は、ペーパークラフトと木製建築模型とプラモデルの模型設計をミックスしたような組み上げ方です。
これは当然、今まで自分が触れてきた建物の模型の組み上げ方の全てに影響を受けているということです。
それと、もうひとつは、実際の建物がどのように組み上がっているかということも大切です。本物の建物の構造を知らないと、その形ができない部分も沢山あります。
ここで、建物を自作する上で参考になる本をご紹介します。
以下にご紹介する本は、私が小学生から中学生くらいの頃に買っものばかりで、かれこれ20年くらい前の本です。今現在は売っていないものもあるかもしれません。
【日本建築の構造を知る本】
『図解 古建築入門』
この本は宮大工さんとお話しした時に、現場に入る前の若い頃、この本で勉強しました、とおっしゃっておられたくらいの内容が詰まった本で….
部材が組み上がっていく様子が1段階ごとに図解してあります。
?となったときに引っ張り出しては確認しています。
『日本人はどのように建造物をつくってきたか1 法隆寺』
この本は小学生の時に読んでいた本ですが、未だに役に立ちます。シリーズの『大坂城』も必携です。他にも奈良の大仏や平安京、江戸の町などがあり、どれも名著です。
『図解 社寺建築』
これ今も売ってるのかなあ。図面集です。ただし法隆寺など、古い図面で現状と違ったりするものも含まれています。
以上、お城じゃないじゃん!と思われるかもしれませんが、お城も宮大工が作ったものです。基本の構造は社寺建築につながっています。
【日本建築の構造を模型化する方法を知る本】
『復元模型安土城』『模型 薬師寺東塔』
これはもう絶版だと思いますが、古本屋などでたまに見かけます。なんとあの宮上茂隆先生が設計されたペーパークラフトです。
作ったのはそれこそ20年くらい前、小学生か中学生の頃だったので、模型自体は残っていません。
薬師寺東塔は構造も簡単に再現されていて部材構造を面で把握することを学びました。
実は宮上先生の単著による本はこの模型2冊と『薬師寺伽藍の研究』の3冊のみなのです。ちなみに宮上先生は薬師寺伽藍の研究で工学博士号を取られています。
宮上先生の頭の中を立体で知ることができる貴重な2冊です。
そう考えてみると、フルスクラッチってその人の頭の中が丸見えですね。もっとこうすればいいのに、というところもたくさんあると思いますが、次回から製作に入ります!