熊本城模型 ネットの情報からここまで分かる | 城郭模型製作工房

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城郭模型作家・島 充のブログです。日本の城郭および古建築の模型やジオラマの製作過程を公開しています。

模型をつくっていると、本物ではどうなっているのか分からない部分がたくさんあります。
熊本城は、昨年の地震で壊滅的ともいえる被害を受けたので、現地に行っても、もはや建物が無かったり、入ることができなかったりするので、いつものような取材も思うようにいきません。

今回は、櫓本体については、熊本城総合事務所より図面を提供していただいたので、スムーズに製作が進みましたが、困ったのが土塀など図面が無い部分です。

周囲の地面の状態など、図面から分からない情報もたくさんあります。

そのような時、まずは手元の写真資料や、以前自分で撮っていた写真にあたります。

それでも分からない部分はネットの画像検索に頼っています。

何か事件があると、ちょっとした情報から個人が特定されてしまう時代です。建物も画像検索を駆使すると、かなり細かいところまで判明します。

土塀を例に挙げますと、まず、宇土櫓の続櫓から延びる土塀。

以前、自分で撮っていた写真から読み取れる情報は…
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●軒下の出し桁の数から、壁の長さは12間半である。
●続櫓との接続部分は瓦屋根が切れていて、板屋根か何かになっている。
●下見板は三枚。
●軒下の垂木は全て塗籠められている。
●両端の出桁だけは半間幅になっている。
●続櫓との接続部分から、高さは2メートルちょっとと推定できる。
●一間につき1つ狭間が空いている。(今回の模型では省略)

私の手元にある写真はこの一枚だけでした。

ここからがネット検索。ここからの画像は様々なサイトやブログ等から資料として引用させていただいています。問題があれば削除します。

続櫓との接続部分や軒裏の状態がよくわかります。
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内側
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●地面から全て塗籠の大壁
●控え柱は二間間隔、石柱になっている。
●瓦の目地漆喰は真ん中に一本。
●軒瓦は桔梗紋である。

続櫓との接続部分。
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●鬼瓦は桔梗紋である。
●手前の接続部分は板葺き屋根になっている。

これらの情報から土塀を作りました。
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この部分は地震で特に崩落がひどかった場所の一つで、今は壊滅していますから、これらの写真はとても貴重で、アップしておられる方に感謝しています。

次に飯田丸五階櫓の備前堀沿いの土塀です。
こちらは自分で撮った写真がなく、資料は全て画像検索です。
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まず一見して軒が薄いことに気がつきます。
軒裏の垂木も見えないようで、板屋根か?と当初は思いました。
あとは
●下見板の最下部に薄いグレーの部分がある

この土塀は復元整備事業の第2期にあたり、「馬具櫓及び続塀」として整備されました。
別の写真を見ると
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●下見板は三枚。
●出桁状の素木の細い部材が見えるがやはり垂木は無い。
●瓦は桟瓦か?
●棟はのし瓦1枚と丸瓦のみを伏せた簡素なものである
●下見板最下部のグレー部分は石の土台である

ということが分かります。

ここで貴重な写真を発見。
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これは復元工事の際に防蟻処理をした業者さんが、自社ホームページで施工例として載せておられたものです。
一気に情報が得られました。

●屋根は洋風の平板瓦に似た特殊なものである。
●内側は一間幅で柱を真壁に見せるつくりである。
●内側木部は素木のままである。
●控柱石は二間間隔である。
●塀を支える控え貫は上が斜め、下が水平である。

これは施行中の写真ですので、このあと素木部分に何らかの塗装がなされた可能性があり、念のため、地震被害の写真を見てみました。
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内側は素木のままのようです。
また、内側最下部が先ほどの写真だとマスキングのビニールに隠れていましたが、表に見えていた石の土台があるようです。

これらの情報から続塀をつくりました。
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内側下部の白壁は汚れをつけています。
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実際の復元作業では、さらに資料が限られています。
第2期の復元整備事業で平成29年度までに復元されるはずだった、平左衛門丸の土塀の考証が熊本市のホームページにpdfファイルでアップされています。


これを見ていると、不鮮明な古写真から屋根瓦の本数までを読み取っていく過程がよく分かります。御肴部屋櫓から小天守下平櫓までの塀は「廊下塀」という特殊なものだったらしく、興味深いです。
地震で復元がかなわず、悔しくなりました。


さて本日作った最後のパーツ。
竹の丸の続塀と宇土櫓の突き上げ戸。突き上げ戸はプラ材が切れれてしまい、一部が昨日の納品に間に合いませんでした。
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明日の展示作業で取り付けます。

これから東京出張の準備です。