俳句・ショート-ショート     菊の花のひらく時 | 俳句のとりな

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いつ、誰が植えたものであろうか。
年に数回、両親の墓に来ると、多恵は、いつも、そう思ったものだ。

 

それは、 まだ蕾もつけてはいなかったが、姿からして、菊のようで

あった。

 

大きく枝を伸ばし、墓前をふさいでいる。
多恵は、 倒れている株を起こし、いつものように用意してきた紐で

括り直した。

 

菊の存在に気付いたのは、 いつ頃であったか、 不確かだったが、

当初、多恵は自生した植物が大きくなったものかと思って、ほかの

雑草とともに刈り取ってしまおうとした。

 

しかしながら、 よくみると、菊は墓の敷地内に左右対称に植えられ

ている。それで、誰かが植えたものではないかと、思い直した。

 

それにしても、誰が植えたものであろうか。

考え抜いたすえに、落ち着いたのは、早くに亡くなった父親のため

に、母親が生前に植えたものではないかということであった。

 

すぐに思いつく結論に、遠回りしたのには、わけがあった。

 

生前、二人には諍いが絶えなかった。

晩年には、とりわけひどくな、盆栽に熱中していた父親は、母親

が少しでも触れようものなら、激怒して、怒がおさまらなくなった。

 

幼い頃から、多恵は、そんな二人の間を右往左往してきた。
そのため、最初から母親を除外して、考えてしまったのだ。

 

親類縁者を思い浮かべても、菊の花を手向けることはあっても、墓

前に植えることなど考えられなかった。

 

昨年のあるとき、多恵は、Sという女性俳人が、Tという恩師に菊

を贈ったというエピソードを知った。

 

菊枕は、菊の花をつんで、陰干しにしたものを、よく乾燥させ、枕に

仕上げたもの。


邪気を払い、頭痛、目の病に効能があると言われ、長寿を祈念して、

よく人に贈られたとか。

 

当時、SとTの師弟関係は。ぎくしゃくとし始めており、Sは、Tに自分

のほうを向いてもらいたいがために、菊枕を贈ったのではないかと、

言われていた。

 

もしかしたら、 母親も父親に、自分のほうを向いてもらいたかったの

かもしれない。


その思いから、墓石屋に、菊の苗を植えさせたのかもしれないと、多

恵は思い当たったのであった。

 

しかしながら、 その母親も墓の中だし、今となっては確かめようがな

かった。

 

また、多恵は、その菊の花が開いたところを、いまだに見たことがな

かった。


いつか、今度は菊の開花した時季に墓参りしようと、手を合せながら、

思っていた。


[今日の一句]


・菊の花探しあぐねし寄辺かな

 

 

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