その人はベージュのステンカラーコートで現れた。

土地の隣地境界の立ち会いのためだった。

小柄ながら背筋がシャンと伸びた方だった。

ステンカラーコート=アクアスキュータムと安易な

想像をしたが、首元からのぞくネイビーの

マフラーのタータンチェック柄から、

コートもバーバリーだっただろう。

境界の確認は互いに異議もなく簡単に終わった。

後日知ったが、東証プライム企業の役員だった。
その後、色々と相談を受けるようになった。

 

既に駐車場にしていた土地の整理、未利用土地の

有効利用など多岐に渡った。何故か僕のことを

気にいってくれた。所有不動産はかなりあり、

旧市街地では指折りの大地主さんだった。

全面的に管理させて頂くことになった。


その方が亡くなり、数年前奥様も亡くなった。

コロナ禍もあり葬儀はなく、息子さんからの連絡

で知った。その方の相続登記をした司法書士が、

間違いだらけで依頼したくないので、

誰か紹介して欲しいと。では僕がやりましょうと

相続登記手続きを引き受けた。
必要書類一式取り揃えて貰い、

登記申請書を作成し、息子さんと一緒に

法務局へ持って行った。
息子さん以外の相続人と合わせると、

土地だけで50筆以上あり、当然登録免許税額も

高額な登記申請が、司法書士ではなく個人が

申請したので受付の人は驚いていた。

司法書士に依頼すると7桁の手数料が必要な

登記だったが、報酬は貰わなかった。
相続税支払いのための相続財産売却は、

所得税が不要となる制度を利用するため、

息子さんと相談し、住民税が一気に

増えないように、3年に渡り指定された

不動産売却を仲介し、相続税を支払い終えた。

 

ステンカラーコートの画像を探したが、イメージに

ピッタリなものがなかったので、IMDBから

マンハッタン物語のスティーブ・マックイーン

画像を借りました。