「あの娘にこの土地を何とか
残してあげたいけど、何とかならないか」
お客さんから頼まれたのは、3年前だった
お客さんは妻子ある男性で、あげたい対象は
長年お付き合いしている女性だ
時間が掛かったのは、あげたいものが
市街化調整区域内にある農地だったため
市街化調整区域とは田、畑が広がる田園風景を
イメージするとわかり易いが、基本的に家を
建てたりする建築行為ができない区域を指す
市街化調整区域内にある土地は
地目が宅地または雑種地の場合は
一般の人でも購入できるが
地目が田、畑の土地は、
農業従事者である等の資格がないと
建てられないだけではなく
購入することもできない
今回の土地は地目が田だった
お客さんは農業従事者なので資格があり
購入することができたが
その女性は資格がない
遺贈(遺言により贈与)の公正証書は
作成できるが、農業従事資格がないと
所有権移転登記できない
資格がなくても所有権移転登記できる場合が
あるが、それは包括遺贈といって、
全財産を遺贈または相続する場合だ
特定の土地のみを遺贈する場合は
資格がないと登記できない
さて困った
3年たった
遺言公正証書の作成を依頼する公証人とは
他のことで年に何度か顔を合わせる
「先生、何とかなりませんか」
「んーん、君が交渉したらええんちゃう?」
公証人曰く、
「市街化調整区域内の農地の所有権移転を制限
するのは無秩序に開発されたり、転売目的で
購入されるのを防ぐためで、もらった土地を
ちゃんと耕作するつもりなら脱法的ではない
ので何とかなるかも。あとは君の交渉次第だ」
所有権移転の可否を決めるのは市の農業委員会で
その窓口になるのは地元の農業委員
その農業委員を説得できれば道は開ける
相続が発生したらちゃんと耕作していれば
すぐにはダメかもしれないが
何年か実績を積めば
そのうち認めてくれるかもしれない
ということでその客さんと僕とカミさんが
公証役場に行き無事遺言公正証書作成
僕とカミさんは公正証書作成の証人として
署名捺印。お客さんは印鑑証明書添付のうえ署名、
実印押印
手続き上、もうひとつ重要なことは
相続が発生したら直ぐ
遺言公正証書をもとに所有権移転の
仮登記を申請しなければならない
妻子側が相続手続きを始めるとややこしくなる
という訳で未来へ向かってのミッションが
ひとつ増えた
*****
2018/10/15(月) 午後 4:53