今の仕事に就き出した頃は、貰った名刺枚数と得られる
情報量は単純に比例すると思い、ひたすら名刺交換し、
保存していた。貰った日付を書いておくと、
後日どんな状況で貰ったかを思い出し易いと言われ
裏面にメモしておくようになった。
その方が転勤し、後任者と会うタイミングで前任者の
名刺は整理するが、処分することは難しい。
この名刺もそんな中の1枚。
お客様から名古屋市中区で所有するマンションの売却
依頼を受け、お願いに回った不動産会社のうちの一社。
その会社は当時、岐阜支店で頻繁に取引する間柄だった
ので、名古屋の物件も、購入希望者を探して貰うため
店頭にお願いに行った。
応対してくれたのが店長当時の高羽さん。
物腰の柔らかい穏やかな人だった。
事件発生後、顔と名前が浮かんだ。
岐阜支店の人とは「大変だったですね」と
言葉を交わしたが、それきり。
毎年、事件が発生した時期の未解決報道で思い出すくらい
だったが、名刺は何故か整理する気になれなかった。
昨年、 事件が急展開し容疑者確保に至った。当初は犯行を
自白していたが、その後は黙秘しているらしい。高場さんの高校テニス部の同級生らしいが、報道だけでは奥さんに殺意を抱くほどの恨みの発生原因は不明だ。学生時代に告白されたが、お断りし、下校時にストーカー風の待ち伏せはあったが、以後、卒業後の同窓会で顔を合わせるまで何もなかったのであれば、容疑者候補に入る訳がない。
報道で映されるファミリービデオの風景が自分たちほぼ同じ時代背景のせいか、他人事とは思えない怖さがある。
振り返れば、昔、告白されたけど断ったことが全くないとは言い切れないので、同様な事件に巻き込まれていてもおかしくない。
事件現場の保全保存、DNA判定という捜査手法の進展、
怨恨者というクローズド・サーキット内での犯行が容疑者
確保に繋がったが、事件が起きていなければ普通に過ぎたであろう日常生活は蘇れない。
名刺が一枚整理できる。




