彼女が帰ってくる前にパスタをつくろう。

僕はいつもの本の16ページを開く。

「ナスとツナのトマトソースパスタのつくりかた」

ナスとツナも好きだけれども、僕はこのページの7行目がとても好きだ。

「油が冷たいうちににんにくを入れて、焦がさないようにていねいに炒め・・・」

にんにくを焦がさないようにていねいに炒める。

ていねいに、ていねいに。

外は相変わらず残忍な悪意や、理不尽な悲しみに溢れているけれども、

僕は少しだけ優しい気持ちになれる。

この世界にわずかながら存在する善意に希望を持つことが出来る。

焦がさないように

ていねいに、

ていねいに、

ていねいに。

そして彼女が帰ってくる。

開いたドアから外の光が溢れ出す。