有機化学勉強会

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(Organic Chemistry Study Group)
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電子の流れを表す曲がった矢印(巻矢印)の書き方の基本をマスターするための本を発売しました。

『矢印反応機構の基本 有機化学演習プログラム』(有機化学勉強会ブックス)

アマゾンでKindle本、ペーパーバック、どちらの形式でも販売しています。

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(Kindle版は、タブレット等の大きめのディスプレイに適しています。またフォントを変えたりなど、一部の機能は使えませんのでご注意ください。)

 

 

以下、宣伝用文章です。。。

 

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矢印が書けるようになる! 

有機化学で重要な「電子の流れを表す曲がった矢印」の書き方の「入門書決定版」。

 以下のように感じているひと必読! 

▶大学の有機化学の授業で矢印を学び始めたが、いまひとつ書き方がわからない。 

▶卒業研究で有機化学系の研究室に配属となったが、矢印の書き方に自信がない。 

▶矢印の書き方を教えるための教材を見つけたい。 

  

矢印反応機構は、ほとんどの有機化学の教科書で取り扱っていますが、その書き方はあまり統一されていません。そこで本書では、多くの化学者が使っていると思われる「最大公約数的」な方法を丁寧に解説します。この方法を学べば、どこに行っても恥ずかしくない書き方を身に付けることができます。この演習プログラムを通して、ぜひ矢印の基本をマスターしましょう。 

 

第一章 矢印反応機構の基本原則 

第二章 共鳴を矢印で表す 

第三章 酸塩基反応 

第四章 脂肪族求核置換反応 

第五章 1,2脱離 

第六章 アルケンへの求電子付加反応 

第七章 カルボニル基への求核付加反応 

第八章 カルボニル基での求核置換反応 

第九章 アセタールの化学 

第十章 エノラートと求電子剤の反応 

第十一章 Michael付加 

第十二章 ここまで触れなかったこと 

第十三章 イミン、エナミンの化学 

第十四章 芳香族求電子置換反応 

第十五章 芳香族求核置換反応 

第十六章 1,2転位 

第十七章 ペリ環状反応 

第十八章 ラジカル反応 

第十九章 古典的人名反応

 

 

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酸存在下にアミンとカルボニル化合物からイミンをつくる反応は、どの教科書にも載っているだろう。

しかし、その機構の最初の段階については、教科書によって2パターンに分かれている。

 

一つ目のパターンは、プロトン(H+)によってカルボニル基が活性化され、そこにアミンが求核攻撃する機構である。

このパターンを採用している教科書としては、例えばボルハルト・ショアー現代有機化学(化学同人)や、ジョーンズ有機化学(東京化学同人)などがある。

アセタール形成反応のときは、アミンではなくアルコールが攻撃するが、そこでは酸によるカルボニル基の活性化が必須である(どの教科書でもそう書いてあるだろう)。その反応から類推するなら、イミン形成反応でも同様に、カルボニル基の活性化から機構が始まってもいいだろう(と普通は考えるだろう)。

 

しかし一方で、二つ目のパターンとして、カルボニル基が活性化されずに、アミンが直接攻撃する機構も提唱されている。

このパターンを採用している教科書には、ウォーレン有機化学(東京化学同人)、クライン有機化学(東京化学同人)、有機化学改訂3版(奥山、石井、箕浦著)(丸善)、などがある。

二つ目のパターンに関しては、「酸存在下の反応なのに、酸によるカルボニル基の活性化が必要ないなんておかしい」と思う人もいるかもしれない。では二つ目のパターンを正当化する根拠は何なのか。その根拠とは次のようなものだ。

(1)アミン存在下で、プロトン(H+)はほぼすべてアミンと結合してアンモニウムとなっている。反応式ではH+と書いてあっても、実際はH3N+Rなのだ。そのためこの条件下ではカルボニル基の酸素はほとんどプロトン化されない。アンモニウムからカルボニル酸素へH+が移るのはかなり難しいからだ(アミンの窒素とカルボニルの酸素とでは、塩基性の違いが大きすぎる)。

(2)アミンによるカルボニル基への求核付加は、H+による活性化が無くても、十分な速度で進行する。

(3)では酸はなぜ必要なのかというと、最初の段階ではなくて、のちの脱水の過程で必要になる(下の式で示した段階)。このときもH+はアンモニウムの形で実際は存在しているので、ヒドロキシ基の酸素にH+が移るのは不利なのだが、カルボニル基の酸素よりはヒドロキシ基の酸素のほうが相対的にはずっと塩基性が高いので、なんとか一部のH+がアンモニウムからヒドロキシ基の酸素へ移ってくれる。

とは言え、上記の二つのパターンのどちらが本当の機構なのかを判断するのは難しいだろうし、反応条件、濃度、化合物の種類(Rの部分の種類)などによっても機構が変わる可能性もあるかもしれない。とりあえずは、どちらでもよし、としませんか。

なお下の動画では、二つ目のパターンを採用している。

 

 

 

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環状の共役ポリエン化合物を[N]annuleneと呼ぶが(Nは環を構成する炭素数)、annuleneの日本語表記は「アヌレン」なのか、「アンヌレン」なのか。

以前は「アヌレン」と呼ばれることが多かったので、教科書によっては「アヌレン」と書かれているかもしれない。したがって「アヌレン」でも間違いではないが、現在の日本化学会の日本語命名では「アンヌレン」である。

 

 

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ベンゼンをNaやLiで還元して1,4-シクロヘキサジエンを得る反応をBirch還元(バーチかんげん)という。下に反応機構を示した。

まず、一回目の一電子還元によりラジカルアニオンが生じる。ラジカルアニオンは18個(!)の共鳴構造式で表すことができる(書くのが大変なので以下の議論ではすべての共鳴構造式をいちいち書かないことにする)。このラジカルアニオンは、系内に存在するアルコール(多くのケースでt-BuOHが使用されるがエタノール等でもよい)によりプロトン化され、ラジカル種を与える。さらに二回目の一電子還元が起こり、ペンタジエニルアニオン体になる。ペンタジエニルアニオンは、中央の炭素部分の電子密度が最も高く、そこがプロトン化されやすい。そのため二回目のプロトン化は中央の炭素で起こり、1,4-シクロヘキサジエン体を与える。

このように反応は、【還元一回目】【プロトン化一回目】【還元二回目】【プロトン化二回目】の順で進行する。

 

さて、Birch還元で議論となるのは、置換基をもつベンゼンの反応における位置選択性である。一般的には下図のように、メトキシ基のような電子供与基の場合と、カルボキシ基のような電子求引基とで、生成物の二重結合の位置が変わる。

どのようにしてこのような結果になるのか、その実験的証明は極めて難しい。計算化学と合わせることによる反応機構の解明研究がいくつか報告されている。以下の議論はそのうちの1つ(Zimmerman, H. E., Acc. Chem. Res. 2012, 45, 164)に基づくものである。

 

まず電子供与基であるメトキシ基の場合、還元一回目で生じるラジカルアニオンにおいて、メトキシ基のオルト位の電子密度が高く、そこがプロトン化される(プロトン化一回目)。この段階で既に、最終生成物中のメトキシ基と二重結合との位置関係が決まる。そのあとは無置換ベンゼンのときと同様に反応が進み、最終生成物となる。

(ちなみにBirch自身ははじめ、ラジカルアニオンのプロトン化がオルト位ではなくメタ位で起こる機構を提唱していた。)

一方、電子求引基であるカルボキシ基の場合は、一筋縄ではいかない。

まず、そもそも基質は塩基性系内でカルボキシラートアニオンになっている。そこに還元一回目が起きるが、生じるラジカルアニオンは、もともとカルボキシラートアニオンだったのでマイナスの電荷が1個多い「ラジカルアニオン」になる。これだけの違いだったら「一筋縄ではいかない」というほどではないが、問題はそのあとである。このラジカルジアニオンが生じたあと、プロトン化一回目が起きるに、還元二回目が起き、マイナス電荷を3つもつ「トリアニオン」が生じる。そのトリアニオンが、最もプロトン化されやすい位置でプロトン化され(プロトン化一回目)、引き続きプロトン化二回目も起きて最終生成物のカルボキシラート体となる。つまり反応は、【還元一回目】【還元二回目】【プロトン化一回目】【プロトン化二回目】の順で進行する。

 

(なお、このように、置換基の種類によって反応機構が微妙に異なるというのは、教科書レベルの議論では混乱を招きかねない。教科書によっては、カルボキシ基をもつ基質でも【還元一回目】【プロトン化一回目】【還元二回目】【プロトン化二回目】の順で進行する機構を提示しているものもある。たとえば、ウォーレン有機化学(第2版)東京化学同人。またそもそも、電子求引基をもつ基質に関して反応機構の詳細に踏み込んでいない教科書も多い。)

 

Birch reduction

 

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還元試薬として有名なsodium cyanoborohydride (NaBH3(CN))ですが、日本語で表記する場合には、いろいろな教科書の間でブレがあり、統一されていません。大別すると「シアノ水素化ホウ素ナトリウム」か「水素化シアノホウ素ナトリウム」の2つがあります。

以下、いくつかの教科書で、どちらを使っているか確認した結果です。

 

ボルハルト・ショアー現代有機化学第8版(化学同人)

シアノ水素化ホウ素ナトリウム

 

スミス基礎有機化学第3版(化学同人)

シアノ水素化ホウ素ナトリウム

 

ウォーレン有機化学第2版(東京化学同人)

水素化シアノホウ素ナトリウム

 

ジョーンズ有機化学(東京化学同人)

水素化シアノホウ素ナトリウム

 

クライン有機化学(東京化学同人)

水素化シアノホウ素ナトリウム


ソレル有機化学原著第2版(東京化学同人)

水素化シアノホウ素ナトリウム

 

ブラウン有機化学(東京化学同人)

水素化シアノホウ素ナトリウム

 

ソロモンの新有機化学第9版(廣川書店)

水素化シアノホウ素ナトリウム

 

大学院講義有機化学第2版(東京化学同人)

水素化シアノホウ素ナトリウム

 

より広範な議論が必要でしょうが、上記の結果だけに限れば水素化シアノホウ素ナトリウムが優勢ですね。

 

 

 

 

 

 

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還元の試薬として有名なlithium aluminum hydride (LiAlH4)を、日本語で表記すると「水素化アルミニウムリチウム」です。

しかしいくつかの試薬会社では「水素化リチウムアルミニウム」として販売しているので注意が必要です。

化合物名としては「水素化アルミニウムリチウム」として覚えましょう。水素がついているのはアルミニウムなので、「水素化」と「アルミニウム」をくっつけた名前となっていると考えればいいでしょう。

 

なお、似たような試薬であるsodium borohydride (NaBH4)を「水素化ナトリウムホウ素」と表記しているものにはさすがにこれまで出会っていません(どこかにはあるかもしれませんが)。「borohydride」がスペースなしの一語だから、わざわざ分解して「水素化ナトリウムホウ素」とする必要が無いからかもしれません。

 

ただしいずれにしてもおそらく、IUPACの正式名ではないと思います。。。

 

 

 

 

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