胃壁細胞内の酸性条件下で、プロトンポンプ(H+,K+-ATPase)と共有結合を形成する。
プロトンポンプインヒビター (PPI)の一種。
omeprazole
ハロゲン化アルキルの脱離反応で、より多くのアルキル置換基をもつアルケンが優先して生成するとき、Zaitsev則に従うという。
ただ、この「Zaitsev」のスペルや、そのカタカナ表記は、教科書によってさまざまである。もともとロシア語表記であるものを、英語表記や英語発音に置き換えられたりしたためだと思われる。
したがってどれが正解というわけでもないと思うが、とりあえず、どのような表記が出回っているのかピックアップしてみた。
ボルハルト・ショアー現代有機化学第8版(化学同人)
Saytzev(Zaitsev、Saytzeffも併記)、カタカナ表記なし
スミス基礎有機化学第3版(化学同人)
Saytzeff、ザイツェフ
ブルース有機化学第5版(化学同人)
Zaitsev(Saytzeffも併記)、カタカナ表記なし
ウォーレン有機化学第2版(東京化学同人)
Saytsev(Zaitsev、Saytzeffも併記)、カタカナ表記なし
ジョーンズ有機化学(東京化学同人)
Saytzeff(Zaitzev、Saytzev、Saytseffも併記)、セイチェフ(ザイツェフも併記)
クライン有機化学(東京化学同人)
Zaitsev(Saytzev、Saytzeffも併記)、ザイチェフ(セイチェフ、サイチェフも併記)
ソレル有機化学原著第2版(東京化学同人)
Saytzeff、セイチェフ
ブラウン有機化学(東京化学同人)
Zaitsev、ザイツェフ
ソロモンの新有機化学第9版(廣川書店)
Zaitsev(Zaitzevも併記)、ザイツェフ
パイン有機化学第5版(廣川書店)
Saytzeff、カタカナ表記なし
マリンス有機化学(東京化学同人)
Zaitsev(Saytzeffも併記)、ザイツェフ(セイチェフも併記)
有機化学改訂3版(奥山、石井、箕浦著)(丸善)
Zaitsev(Saytzeffも併記)、ザイツェフ
第2版標準化学用語辞典(丸善)
Zaitsev、ザイツェフ
化学(数研出版)(高校の教科書、令和4年検定)
英語表記なし、ザイツェフ
まとめると、英語表記ではSaytsev、Saytzev、Zaitsev、Zaitzev、Saytseff、Saytzeffがあり、カタカナ表記ではザイツェフ、ザイチェフ、セイチェフ、サイチェフとなる。
こうなると、多少スペルを間違えても、カタカナ表記が違っていても、特に問題は無いような気がしてくる。
アミドの加水分解(酸性条件下)の反応機構
上記の「立ち上がる」と「降りてくる」をまとめて書いてしまって(四面体中間体を省略して)簡潔に反応機構を表す方法もある(下図)。ただしこの書き方は、上記の書き方を十分理解した人が使うものであって、初学者は下図の書き方を避けた方がいいと思う。四面体中間体でのプロトンの移動がどのようになっているのかを理解していないと、下図で脱離するのが「-NH2」であるかのように勘違いしてしまうかもしれない。
参考
上の反応式に、電子の流れを表す曲がった矢印(巻矢印)を書き入れるとすると、どのようになるだろうか。多くの人は(ほぼ無意識のうちに)下図の上段のように書くだろう。これは当然正しい。下図の下段のように書いてはいけない。
上段と下段で何が違うかと言えば、曲がった矢印の「曲がる向き(カーブが膨らむ向き)」が違っている。つまり正しい上段の方は「右に凸」となっているが、誤った下段の方は「左に凸」になっている。この違いは重要である。
この反応では、二重結合のπ(パイ)結合を形成している2つの電子が、新しくできるC-H単結合に使われる。この電子の動きを視覚的にイメージしたものが、曲がった矢印である。そしてその動きは、下に示したイメージ図(電子を赤丸で表している)のように、二重結合を形成している左側の炭素を円の中心とした(あるいは扇の要とした)円弧を描くような動きである(あくまでイメージとしての電子の動きであるが)。その動きの曲がる向きが、そのまま曲がった矢印の曲がる向きとなるのである。
このような「曲がった矢印の円弧の向き」にまで気をつかって矢印を書いている教科書は、実はそれほど多くない。そのため、曲がる向きなんて気にしなくてもいいんじゃないか、という気さえ起きてくる。しかしやはり気にしよう。より正しく化学を理解するためだ。
以下には、間違いやすい例を(正誤ともに)示した。
(1)ブロモニウムイオンの生成
(2)転位・・・1番目の書き方が窮屈で書きにくかったら、2番目のような書き方も可能(矢印の出だしの膨らむ方向に注目)
参考文献
大学院講義有機化学 I (第2版)野依良治(編集代表)、東京化学同人、2019、p.216.
ジョーンズ有機化学(上)奈良坂紘一、山本学、中村栄一(監訳)、東京化学同人、2000、p.680.