有機化学勉強会

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フェニルヒドラジンとカルボニル化合物(ケトン、アルデヒド)からインドールを合成する方法

Fischer, E.; Jourdan, F. Ber. 188316, 2241.

 

[3,3]-シグマトロピー転位の過程は酸で加速される。

See: Garg, N. K.; Houk, K. N. et al. J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 5752.

 

フィッシャー インドール合成

Fischer indole synthesis

 

ハロゲン化アルキルの脱離反応で、より多くのアルキル置換基をもつアルケンが優先して生成するとき、Zaitsev則に従うという。

 

ただ、この「Zaitsev」のスペルや、そのカタカナ表記は、教科書によってさまざまである。もともとロシア語表記であるものを、英語表記や英語発音に置き換えられたりしたためだと思われる。

したがってどれが正解というわけでもないと思うが、とりあえず、どのような表記が出回っているのかピックアップしてみた。

 

ボルハルト・ショアー現代有機化学第8版(化学同人)

Saytzev(Zaitsev、Saytzeffも併記)、カタカナ表記なし

 

スミス基礎有機化学第3版(化学同人)

Saytzeff、ザイツェフ

 

ブルース有機化学第5版(化学同人)

Zaitsev(Saytzeffも併記)、カタカナ表記なし

 

ウォーレン有機化学第2版(東京化学同人)

Saytsev(Zaitsev、Saytzeffも併記)、カタカナ表記なし

 

ジョーンズ有機化学(東京化学同人)

Saytzeff(Zaitzev、Saytzev、Saytseffも併記)、セイチェフ(ザイツェフも併記)

 

クライン有機化学(東京化学同人)

Zaitsev(Saytzev、Saytzeffも併記)、ザイチェフ(セイチェフ、サイチェフも併記)


ソレル有機化学原著第2版(東京化学同人)

Saytzeff、セイチェフ

 

ブラウン有機化学(東京化学同人)

Zaitsev、ザイツェフ

 

ソロモンの新有機化学第9版(廣川書店)

Zaitsev(Zaitzevも併記)、ザイツェフ


パイン有機化学第5版(廣川書店)

Saytzeff、カタカナ表記なし

 

マリンス有機化学(東京化学同人)

Zaitsev(Saytzeffも併記)、ザイツェフ(セイチェフも併記)

 

有機化学改訂3版(奥山、石井、箕浦著)(丸善)

Zaitsev(Saytzeffも併記)、ザイツェフ

 

第2版標準化学用語辞典(丸善)

Zaitsev、ザイツェフ

 

化学(数研出版)(高校の教科書、令和4年検定)

英語表記なし、ザイツェフ

 

まとめると、英語表記ではSaytsev、Saytzev、Zaitsev、Zaitzev、Saytseff、Saytzeffがあり、カタカナ表記ではザイェフ、ザイェフ、イチェフ、イチェフとなる。

こうなると、多少スペルを間違えても、カタカナ表記が違っていても、特に問題は無いような気がしてくる。

 

 

 

 

 

 

複数個の不斉炭素原子等のキラル中心をもつ分子において、そのうちの一つのキラル中心の立体配置だけが逆になっているジアステレオマーを「エピマー」という。

 

ある分子が、そのエピマーに変わる反応を「エピマー化」という。

 

英語がepimerizationであるため、日本語でつい「エピメリ化」と言ってしまうが、「エピマー化」が正しい。

 

 

 

さまざまな溶媒のうち、強く水素結合できる官能基(ヒドロキシ基など)をもつものを「プロトン性溶媒」と呼ぶ。

 

プロトン性溶媒の例

 

また、プロトン性溶媒以外の溶媒を「非プロトン性溶媒」と呼ぶ。

アセトンは通常、非プロトン性溶媒に含めるが、エノールとの平衡を考慮してプロトン性溶媒として分類されることもある1

 

参考文献

1) 標準化学用語辞典第2版、日本化学会編、丸善(2005)

 

protic solvent

aprotic solvent

 

 

アミドの加水分解(酸性条件下)の反応機構

 

  1. アミドのプロトン化・・・酸素原子にプトロンがついて、カルボニル基を活性化する(カルボニル炭素に、求核剤である水が攻撃しやすくなる)。アミドがプロトン化される位置は酸素である(窒素ではない)。
  2. 水の求核付加・・・活性化された(δ+性が上がっている)カルボニル炭素を、水の酸素原子が攻撃する。それと同時にC=O 部分の結合が「立ち上がる」。その結果、四面体中間体(真ん中の炭素がsp3)が生成する。
  3. アミノ基のプロトン化・・・水由来のプロトンが取れて、一方アミノ基の窒素がプロトン化される。上図では、同一分子内のプロトンがOからNに移っているように書いてあるが、そうとは限らず、溶液中に存在している他のプロトンがNに結合する可能性もある。
  4. NH3の脱離・・・プロトン化されて脱離能が上がったNH3が脱離する。その際、酸素原子から非共有電子対が「降りてくる」。酸素原子からの、いわゆる「電子の押し出し」である。
  5. 最後はカルボニル基の酸素についているプロトンがはずれて、一方、アンモニアはプロトン化されてアンモニウムになる。そのため、酸が消費される(つまり触媒回転しない)。

上記の「立ち上がる」と「降りてくる」をまとめて書いてしまって(四面体中間体を省略して)簡潔に反応機構を表す方法もある(下図)。ただしこの書き方は、上記の書き方を十分理解した人が使うものであって、初学者は下図の書き方を避けた方がいいと思う。四面体中間体でのプロトンの移動がどのようになっているのかを理解していないと、下図で脱離するのが「NH2」であるかのように勘違いしてしまうかもしれない。

 

参考

エステル交換反応

 

 

 

 

 

上の反応式に、電子の流れを表す曲がった矢印(巻矢印)を書き入れるとすると、どのようになるだろうか。多くの人は(ほぼ無意識のうちに)下図の上段のように書くだろう。これは当然正しい。下図の下段のように書いてはいけない。

上段と下段で何が違うかと言えば、曲がった矢印の「曲がる向き(カーブが膨らむ向き)」が違っている。つまり正しい上段の方は「右に凸」となっているが、誤った下段の方は「左に凸」になっている。この違いは重要である。

この反応では、二重結合のπ(パイ)結合を形成している2つの電子が、新しくできるC-H単結合に使われる。この電子の動きを視覚的にイメージしたものが、曲がった矢印である。そしてその動きは、下に示したイメージ図(電子を赤丸で表している)のように、二重結合を形成している左側の炭素を円の中心とした(あるいは扇の要とした)円弧を描くような動きである(あくまでイメージとしての電子の動きであるが)。その動きの曲がる向きが、そのまま曲がった矢印の曲がる向きとなるのである。

このような「曲がった矢印の円弧の向き」にまで気をつかって矢印を書いている教科書は、実はそれほど多くない。そのため、曲がる向きなんて気にしなくてもいいんじゃないか、という気さえ起きてくる。しかしやはり気にしよう。より正しく化学を理解するためだ。

 

以下には、間違いやすい例を(正誤ともに)示した。

(1)ブロモニウムイオンの生成

 

(2)転位・・・1番目の書き方が窮屈で書きにくかったら、2番目のような書き方も可能(矢印の出だしの膨らむ方向に注目)

 

参考文献

大学院講義有機化学 I (第2版)野依良治(編集代表)、東京化学同人、2019、p.216.

ジョーンズ有機化学(上)奈良坂紘一、山本学、中村栄一(監訳)、東京化学同人、2000、p.680.