【夜の鴨川】🦆


今回の滞在中、何度この四条大橋を渡っただろう。

橋から降りて左右に分かれた河岸の土手を夜歩きながら、二人でお酒を飲み、鴨川の流れを眺め語りあったいくやもの夜。


週末の出張が取りやめになり、延泊してこのまま京都で過ごさないかと彼が言う。

金曜の祝日と土日が重なり、ホテルの値段が一気に跳ね上がり平日の4倍以上になっていたが、こんな機会もそうはないだろうと同じ部屋を急いで確約し滞在を決めた。


誕生日の当日も丸い月が煌々と明るかった🌕

手を繋いで、一緒にどこへでも


『京都は本当に素敵だね、僕は世界一ロマンチックな場所だと思ってる。こんな所どこにも無いよ。こんな風に秋の最高の季節に君と二人で京都をゆっくり旅行できるなんて幸せだ。K、いつもありがとう、存在してくれてありがとう。お誕生日おめでとう。』


京都マジック、天気にも気候にも恵まれ、紅葉の始まった美しい京都の街を存分に楽しみ、毎日たくさん歩いた。

夜は更に幻想的で、昼間とは全く違った京都の楽しみ方が出来るのも魅力的。イルミネーションに彩られた庭園や石畳は息を呑む美しさ。


鴨川沿いの堤防にもたくさんの店が並んでいる。夫が一度友人に連れられて行った感じのいい店が思い出せないと頭を捻っていたが、微かな記憶とGoogleマップを重ね合わせてどうにか辿り着いた。


遅い時間で客はまばらだったが、夫はカウンターに駆け寄ると懐かしそうに挨拶し、店の人も快く迎えてくれた。私の誕生日だからとお客さんたちも巻き込んでバースデーソングを歌ってお祝いしてくれた。

店のお手製のケーキにロウソクが灯され、願い事をして吹き消した。🍰🕯️


『愛してる❤』 突然みんなの前で面と向かって言われたので照れて笑ったら「どうして笑うの?」とむくれて揶揄された。

夫はバーにいた初見の常連らしき男性客とタバコを吸いおしゃべりを始めた。私の誕生日があと数分で終わるのに、、、、私は一人カウンターにポツンと取り残された気分になってしばらくスマホを見つめ待っていた。


0時を過ぎると私は我慢しきれずに怒りだした。


「ちょっと!今日は私の誕生日なのにどうして私を一人にするの!!私を放っておいてどういうつもり?あなたは今は他人とじゃなく私と一緒に居るべきじゃないの!何のために私とここに一緒に連れて来たのよ?もう0時を過ぎちゃったじゃない!💢」


いつもなら微笑み、彼が楽しんでいるのを邪魔したりせず店の人たちとおしゃべりして待っている。

大人げない、自己中な言動だろうし、周りの人にも気まずい思いをさせてしまってると思ったが正直な気持ちを伝えたかった。

今日は物分かりのいい私ではなかったのだ。

私も周りの人に謝りつつも、断固とした態度を崩さなかった。


彼は一瞬驚いた顔をして、ごめんごめんと言いながら私の側に来て、それから微笑みながら泣き出したのだ。


『僕は今感動してるんだ。そんなに僕のこと愛してくれてるなんて知らなかった。誰かからこんなにも必要とされて愛された経験はなかったよ。嬉しい、人生でこんなに嬉しかったことないよ。ねぇ、みんなもそう思うだろう?そう思わないか?

だって僕は外にいたわけじゃない、同じ空間にいてちょっと振り向けば目の届く数メートルのところに居ただけだよ。それなのにそんなに怒ってるなんて。愛おしいよ。』


今度は私が呆気に取られ、想定外の彼の反応に驚いた。てっきり面倒で嫌な顔をされると思っていたから。


それからも彼は反芻するように何度も目に涙を溜めて、一晩中同じ言葉を繰り返し、「ありがとう、ありがとうK、そんなに僕をあいしてくれて」と言って泣いていた。


何がそんなに夫の琴線に触れたのか、ただ酔って機嫌が良かったせいなのか、彼の反応に私が困惑する番だった。

私が今まで我慢していたことは逆効果だったと言うことなのか?

今まで気持ちを素直に出せず、物分かりのいい女性を演じているのは相手に誤解を与えるものだったのか?

夫の言葉を聞きながらそんな疑問がグルグルと頭を駆け巡っていた。


『K、ありがとうありがとう。君は僕の天使だ、君が僕に生きる糧を与えてくれた。お互いが伴侶となって感謝してもしきれないよ。生まれてきてくれてありがとう。』


そう呟きながら鴨川の散歩道で夫は私を強く抱きしめていた。