話は開廷の10分前にさかのぼる。
法廷にコータリン弁護士が入ると、すぐに書記官に呼ばれ、今回こちらが側が提出した準備書面を手渡されている。
百式と俺を交互に見比べながら、薄ら笑いを口元に張り付かせ、準備書面をおつきの法務担当とともに回し読みを始める飛脚の法廷代理人(偽コータリン)。
「なんだこりゃ?」
などと言いつつ、こちらを小馬鹿にした笑いを下品に浮かべ回答書を読み込んでいたが、その手がぴたりと止まる。
すぐにコータリン弁護士は顔を伏せ、おつきの飛脚便の法務担当たちに素早く耳打ちする。
3人は一様に気まずい表情となり、こちらを見ようともしない。
驚異の速度で提出されたこちらからの的確なお返事に、愚策が破れたことを察したのだろうか?
もしくは、つつかれるとこれも瀕死となる長大な労働時間の証拠となる、タイムカードの内訳から構成した新たな証拠を見たのだろうか?
はたまた、あり得ないと思っていたずさんな安全衛生管理についての、追加の主張がなされていることを見たからか。
まあ、全部だろw。
そんな気まずい空気の中で、約30分近くも遅刻してきた否王の弁護士。
落ち着かない中でこちらから出された準備書面を見て、さらに挙動不審が激しくなっている。
「勝った!」
心の中でガッツポーズを決める俺。
穏やかないつもの顔のまま正面を見ているが、心中では邪悪な笑みで腹を抱えて笑い出したい心境だった。
低学歴の二人組が、高学歴の象徴たる弁護士に、知恵で勝った瞬間を想像していた自分に、信じられない言葉が聞こえてくる。
「えーと、この準備書面3は、何についての主張なんですか?」
と、裁判官からの質問が・・・。
すべての主張には、ある程度分かりやすく分類分けはしてあるが、一般的にはこの速度で被告からの回答書への反論が原告側から出てくるわけはないので、裁判官がこの準備書面を理解していないのである。
で、百式を見ると、凍っている!
え、ちょいと、あんた?どうしたんだい?
裁判官の質問には答えずに、闇雲に準備書面をめくり出す百式。
その10分後・・・。
「分からないのなら、分かる人に聞いてもいいですよ」
裁判官の温情で、俺への質問が許可された。
なのに、まだパニックのためにページをめくりまくる愚鈍な百式・・・。
「それでは、次回の日付は来月の22日で」
百式、おまえがバカだから、まだ続くんかい!
俺が原告だったらなぁ。もう終わりなのに。
あー、もうやだ、こんな奴と組むのは。