大鳥池から葛根田にまわりこんだ。仙台のK氏を案内するための、三泊四日の沢旅である。栗駒の渓が、地震の影響を受けて壊滅状態なのに比べ、どうにか生き残った感のある葛根田や東北北部の渓に感謝せねばなるまい。
8月8日から11日におよぶ、今回の沢旅が充実したのは、ひとえに天候の安定と、停滞をしなかったからであろう。初日は難なく二俣に着き、最高のテント場に腰を落ち着けるが、なにせイワナが釣れない。魚影は豊富なのてある。が、平瀬の続く葛根田では、イワナに先に姿を見られてしまい、なかなかこちらの思うようにならないのであった。もちろん、腕の悪いことは否定しませんがね。
イワナの犇めく渓にいながら、ほとんどボウズという不思議な結果に苦笑いする。でも、焚き火を囲んで酒を呑み始めれば、こっちのもの。穏やかだった葛根田の清流に感謝をし、明日からの無事を祈る。
翌日は山越えの日。イワナの棲まない右俣左沢を詰め上げる。上部で現われる四つの滝を、いずれも左からかわし、湧水が流れ出す始原の一滴を、いつものように探し当て、そこからほんのひと登りで稜線に飛び出して握手を交わす。
八瀬の湿原まで歩き、そこから大深沢に降りる。ちょうど標高1000メートルで関東沢が出会い、さらに1時間ほどで本流に降りた。夏本番だというのに、私たち以外は誰もいない。テント場で薪を集め、荷物を放り出して釣りに出向く。この沢は葛根田と違い、イワナのポイントが連続している。当然、葛根田よりは釣れることになる。
一時間も経たないうちに、その日食べるイワナを確保して、意気揚々とテントに戻る。葛根田の敵を大深沢で討った形のK氏は、至極ご満悦だった。
三日目は、ふたたび稜線に立って大深山荘にいたる日。朝日に染まるナイアガラの滝に感嘆し、滝下で数尾を釣り上げ、蒲焼用のタレに漬ける。これは今宵のイワナ丼になる予定。あとはサオを仕舞い、ひたすら遡行をつづける。稜線に立ったのは午後一時。まずまずの経過。あとは秋田駒と岩手山を眺めながら、のんびりと歩き、三時前には山荘に着く。俺たちだけだといいけどね、といいながら外宴会をするが、すでに先着が二名いて、それから数人がやってきて、小屋のスペースはほぼ埋まる。まあ、夏だしね。外は夕暮れの風で寒くなってきたが、小屋のなかは暖かで、安眠できた。
最終日もよく晴れた。小畚から三石山を経て、滝ノ上温泉に下るばかり。遅い出発をし、早い午後に下山した。
半月後も、同じルートをたどる予定だが、天気に恵まれて欲しいものである。それほど、東北の谷を堪能した旅であった。