阪神タイガースを応援している。夏は彼らの季節だからだ。高校野球に本拠地を奪われて、毎年夏になると「死のロード」を余儀なくされるからである。各地を転戦して帰るに帰れず、まるでジプシーのような生活を強いられている阪神タイガースを見るたびに、同情と共感を禁じえない私がいる。そう、私もまたジプシー生活の申し子なのである。

 八月は黒部に半月通った。黒部下流の黒薙谷と中流の阿曽原小屋、そして上流の東沢谷と、注文の違う三つの取材とガイドで、黒部にい続けたようなものだった。

 その半月のあいだ、雨が降ったのは、たった二時間程度なのだから、晴れ男の面目躍如といってみたい。

 黒部も最近は閑古鳥が鳴いている。げんに観光客の姿は乏しくなっていたし、上ノ廊下にいたっては、入山日に出合った奥黒部ヒュッテの主人によれば、いまだ入渓者はゼロとのこと。アルペンルートなどは、一時の喧騒が信じられないほどの寂しさだった。しかし、それは違う意味で考えれば、時代を映す鏡ともいえるのである。

 黒部ダムは堆砂率が0パーセントを超えたと聞くし、出し平ダムと宇奈月ダムの排砂問題は、自然を破壊して省みない暴挙である。マスコミや地元は被害者に同情と支援を寄せないというが、ようやく時代は、原生の自然に必要以上の手を加えることを容認しなくなっているようにも見える。その世論の積み重ねが、少しずつ、自然破壊の元凶のような黒部の観光開発のセレモニーに違和感を覚えるようになってきているのではあいのか。

 つまり、これまでの観光のPR方法が通用しなくなってきているということだ。いつまでも黒部ダムの威容と放水を見せて、これが世界に冠たる日本の技術力の勝利です、と喧伝している時代でもあるまい。

 その反省がどこにもないままに排砂ダムを稼動させ、沿岸の漁業をダメにして振り返らない関西電力の姿勢に、うんざりしているひとびとが少しずつ増えているのだと信じたい。

 できたものは仕方がない。ならば、その運用と開発の手法を変えればいい。観光もまたしかりで、いつまでもプロジェクトエックスの幻影にすがっていてはダメなのだ。私たちはこんなに本気で、自然にダメージを与えない範囲で開発をしています。電源開発は国民にとって必要不可欠なので、どうかみんなで知恵を出し合いながら、どうしたらいいのかを考えようではありませんか。その結果がご覧の光景です。とでもいえば、徐々にだろうが、すこしずつ観光客も戻ってくるに違いないのである。