恩田陸さんの旧作「チョコレート・コスモス」を一気に読了する。奥付を見ると2006年、およそ18年前の作だ。おれは実は、恩田さんの初期からの読者である。デビュー作の「六番目の小夜子」から始まり、殆どの作品を読んできた。ただ、中盤以降、ちょっと読むのを止めていた。何故なら、彼女の多くの作品において、序盤の実に魅力的な「謎」の提出に対し、その回答が、意外なほどあっけないものであることが多かったからだ。一体、これは何なんだろうと期待して読み進むと、なーんだ、そういうオチかよ、と感じる作が多かった気がするからだ。

 

 暫くご無沙汰していた後の大ヒット作「蜜蜂と遠雷」を読んで、腰が抜けるほど仰天し、いつの間にかこんなに凄い音楽小説を書ける人だったんだと瞠目していた。特に音楽が鳴り響いたとたんに、人々の心に立ち上がる、その感覚や感動をここまで書き尽くせる人は、ジャンルは違うが初期の山下洋輔シリーズのほか知らない。さすがに直木賞、本屋大賞ダブル受賞作である。

 ただ、それ以降も、あまり積極的に彼女の作品に手を出してこなかったのだが、この「チョコレート・コスモス」は、いわば「蜜蜂~」の前哨戦ともいえる作品で、小劇場や大手劇団などの演劇製作において、突如現れた新人女性劇団員を巡る物語である。

 一気読みの面白さではある。あるが、うーん、なんというかこれは物語の途上だろう。この後、彗星の如く現れた彼女と、それを取り巻く人々、彼女を見つけ出した伝説的な演出家、最初に彼女が属した新進の小劇団とその座付き脚本家、などまだまだ書き足りないことが一杯な様な気がする。

 

 続編、続々編により、恩田版「ガラスの仮面」を書き上げて欲しいものだ。