池波正太郎著「男振」(おとこぶり)、読了。久しぶりの池波著作の時代モノだが一気読みである。やっぱ池波氏の著書は良い。さすがの時代モノだからか、本当に良い。奥付を見ると1975年の作品、まさにアブラの乗り切った時期であろう。

 独特の文体とリズム、改行して、いきなり「旨い」と呟くなど、さすがである。またちょっとした食事風景が、意外に登場人物たちの内面とか在りようを伝えて、食通作家の面目躍如であろう。

 

 あれはおれが18歳とか19歳とかの頃か。町の本屋の平台に並べられた池波氏の「散歩のとき、何か食べたくなって」を手に取ったのが始まりか。江戸時代から現代に続く江戸の食文化、トーキョーの食べ物などの食エッセイで、名著の一冊である。

 おれは何とその時、池波正太郎という人物が何者か全く知らずに読み終えたのだが、かれが「鬼平犯科帳」や「必殺シリーズ」の作者だとは知らなかったのである。めでたい小僧であった。

 ただ、まるでレコードやCDをジャケ買いするが如く、そのタイトルだけで買ってしまうほどの、素晴らしいタイトルではないか。

 

 当然の様に、その著作に登場するお店に食べに行ったんだが、所詮、お金に余裕のない大学生であって、せいぜい、浅草並木の「やぶ」とか渋谷百件店(ひゃけんだな)の「ムルギー」「喜楽」とかのみであった。代わりに近所にあったカウンター天ぷら屋とか、ちょっと美味しい蕎麦屋とか(確か、ダイコクとかいう屋号で漢字は思い出せない)とかに通ったものだ。

 特にその蕎麦屋が冬場になると出してくれる「鴨ネギ蕎麦」が美味くて、風呂上りに(銭湯へ行く途中にあった)冷酒と「鴨ネギ」を食べるのが、寒い冬の楽しみであった。

 

 ああ、なんか腹が減ったぞ。