見えない男
俺は普通の人間だった。
昨日までは・・・。
朝、起きていつも通り朝食を食い、大学へ向かう。
途中で車にはねられそうになる。
なんて荒い運転だ。
大学について、席を確保する。
友人の相田はまだ来ていない。
あいつの席もとっといてやるか。
数分後、寝癖をたっぷり生やした相田が登場。
「よぉ、今日も寝坊か!?」
という俺のセリフを無視して、ちょっと離れた席に座る。
・・・どうやら今日は機嫌が悪いようだ。
教授が来て、レジュメを配る。
そのレジュメが前から後ろへ手渡されていく。
もちろん、俺の元へも・・・来ない?
俺を飛ばして後ろの席の人物にレジュメが手渡された。
気付かれなかったのかな。
いつからこんなに存在感の薄い男になってしまったのか・・・。
仕方ないので最後尾まで行ってレジュメを取ってきた。
その後は順調に授業も終わり、昼食の時間となった。
機嫌が悪かったけど、一応相田も誘ってやるかと声をかけるがまた無視される。
俺、なんかしたっけ?
ほとぼりが冷めたときに何事か知らんが謝っておこう。
相田の機嫌も良くならないので、一人で学食に行くハメになった。
「おばちゃん、カツカレー一つ。」
おばちゃんはこちらの要望に耳をかたむけない。
おばちゃんと呼ばれたのが気に食わないのか?
ならばとばかりに俺はお姉さんと呼んでみたが、やはり無視。
それどころか、俺の後に来たやつが注文し、それを受け入れるおばちゃん。
なんだってんだ。
「見えないのさ」
耳元でそんなことをつぶやかれる。
誰だと思って振り返ると、フードを深くかぶった男が立っていた。
俺があんぐりとしていると、男は言葉を続けた。
「君の姿は今、君と僕以外の人間には見えない。」
「何を言って―――――」
「僕の言葉が信じられないかい?今日、おかしいことは起こらなかった?」
「別に、なんとも・・・・」
いや、待てよ。
相田が機嫌悪そうに俺の言葉を無視していたのって、こいつの言うように俺が見えていなかったからか?
それにレジュメも飛ばされるし、カツカレーも食えない・・・・。
これって、まさか。
「どうやら心当たりがあるようだね。」
その男はフードを深くかぶっていてよく見えないが、口元だけ微かに笑っていた。
ここは昼時の学食で、周りの人間はとても騒がしく行き来している中で、俺とこの男だけ異次元にいるような気がした。
「でも、どうして・・・!?」
もし、もし仮に俺が周りの人間から見えていない、存在感ゼロ人間になってとして、そんな不条理なことがなんの理由もなく起こるのであれば、俺は神様を恨みかねない。
「それは・・・僕にもわからない。」
「なんでだよ!お前は・・・お前は俺を助けに現れたんじゃないのか!?・・・手を差し伸べてくれるんじゃないのか!!」
「残念だけど、助けられない。僕も・・・・・」
次の言葉を聞いた途端、不安と絶望が入り混じる感情が俺の顔からにじみ出るのだった。
「僕も君と同じ境遇だから・・・。それに、もう三年もこの状態だ。」
そう言うと男は苦笑した。