新聞部の二人
「べ、別にあんたのためについてきてるわけじゃないんだからね!」
「じゃあ、何のためです?」
「ぶ、部員のみんなのためよ。あんたじゃ、どの原稿用紙買えばいいかわかんないでしょ?」
゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚
今日はオフだ。
しかし、オフの日こそ、仕事人は仕事の準備をするものだ。
というのも、長年使ってきた取材用手帳を使い切ってしまったので、新しいのを買いにきたのだ。
私は文房具屋に入ると、これまた珍しい会話を聞いた。
「どうしたんです?先輩?」
俺町高校の制服を着た男女が、原稿用紙の棚のところで立ち往生している。
男の子の方が、先輩と言われた女の子をじっと見ている。
「・・・ってよ」
「へ?」
「届かないの」
女の子の方は俯いて、顔を赤くしている。
なるほど。棚の上の方に目当てのものがあるけど、背が届かなくて困っているわけか。
しかし、後輩であろう男の子に弱みを見せたくなかったから、恥ずかしくてたまらなくなっているというわけだ。
「これぐらい・・・よっと。はい。」
と、目当ての原稿用紙を軽々取って、先輩に渡す。
しかし、先輩はそっぽを向いて
「これぐらい・・・ってあんた。失礼じゃない?なに?私がそんなにチビだっていいたいの?」
「いや、そうじゃないですよ。これぐらいお安い御用ですよっていう意味ですよ」
後輩の男の子はなんて優しい子なんだろうか。
まるで、千手観音のような優しさ。
「ふん!私だって・・」
「危ない!!」
背伸びして、取ろうとしたが、足元のバランスが取れず、どんがらがっしゃんと音を立てて、二人が倒れた。
後輩に先輩が重なる形になった。
「ご、ごめん」
顔を真っ赤にして、後輩から離れる先輩。
そろそろ、声をかけよう。
「一部始終、拝見したよ」
急の登場に二人ともポカーンとしている。
私が名刺を差し出すと、二人とも大慌てして、サインをねだってきた。
実は彼らは、俺町高校の新聞部だったのだ。それで私に憧れているわけか。
「それにしても君たち、今時ベタなこけ方するね」
「み、見ていらしたんですか?ぜ、絶対に記事にはしないでくださいね?」
ごめん。しちゃったわ。
苦情は受け付けん。
「じゃあ、一人ずつ取材しようか。よし、女の子の方から先に始めようか。」
後輩君には、店を出てもらった。
短めのツインテールで、頭が私の胸のあたりにくるぐらいの身長だ。
(決して、チビと言っているわけではない)
「じゃ、名前は?」
「恋条(れんじょう)です。黒井さんの取材を受けれて光栄です。」
その言葉は、本物らしく目をピカピカと輝かせている。
この仕事してて良かったなと思った。
「ズバリ、聞きます。これは、長い経験から得た独自の人間観察力が生み出した勘なんだけど、君、あの後輩くんのこと好きでしょ?」
「え!?」
彼女の心臓がドキッと音を立てた。
周りにバレないように振舞ってきたんだろうが、惜しくもバレバレだ。
「な!?・・そ、そんなわけ・・ないじゃないですか!!誰があんなやつなんか・・」
「せんぱぁい・・もう終わりましたかぁ?ボクもそろそろ取材うけt」
後輩君の悪口を言っているときに、後輩君が入ってきて、聞かれていたのではないかという不安から、恋条さん
は一瞬だけ無言になり、すぐに
「も、もう、終わったわよ!ね?黒井さん?」
「ボクはまd・・・・・行っちゃったよ」
取材の対象に逃げられたのは初めてである。
彼女は、顔を真っ赤にして、逃げるように店の外に出て行った。
「じゃあ、君、名前は?」
「向井田です。よろしくお願いします。」
そういうと、彼は爽やかな白い歯をこちらに向けて笑顔を作った。
作ったというより、彼の内面にある優しさが顔に出ているだけなのだろうが。
「向井田くんね・・正直、恋条先輩のことどう思う?」
向井田くんは、ちょっと間をあけて、こちらをちらりと見ると、言葉を選びながら言った。
「先輩は、普段はガサツで、自分勝手で、無頓着なところがあります」
このとき、私は気付いていた。
数秒前に、恋条さんがこっそりとこの店に入ってきて、彼のいる棚の裏で聞き耳を立てていることに。
今頃、どんな顔してんだろうな。
もしかすると、本気で泣いてるかもな。
「けど、たまに親切で、心は繊細・・って言うかピュアで・・ホントはすごく優しくて・・・ボクはそんな先輩が大好きです。」
向井田くん。君は本当に天才だよ。
とか思っていると、向こうの棚から恋条さんがやってきて。
「ほら、もう帰るわよ!」
「えっ?でもまだ原稿用紙が・・・」
「いいから!!」
恋条さんは、なみだ目だった。
どうやら、私の推理は正しかったようだ。
彼女は顔を真っ赤にしながら、向井田くんを店から引きずりだしていった。
なんだ・・お似合いじゃないか。
と思いながら、微笑しているうちに、自分も手帳を買わねばならないことを思い出す。
あ、誤解しただろうな、彼女。
向井田くんの言う「大好きです」ってのはたぶん・・・
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だろうな。まあ、これも私の推理に過ぎないが。