新聞部の二人 | 俺町物語

新聞部の二人

「べ、別にあんたのためについてきてるわけじゃないんだからね!」



「じゃあ、何のためです?」

「ぶ、部員のみんなのためよ。あんたじゃ、どの原稿用紙買えばいいかわかんないでしょ?」


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今日はオフだ。



しかし、オフの日こそ、仕事人は仕事の準備をするものだ。



というのも、長年使ってきた取材用手帳を使い切ってしまったので、新しいのを買いにきたのだ。


私は文房具屋に入ると、これまた珍しい会話を聞いた。



「どうしたんです?先輩?」



俺町高校の制服を着た男女が、原稿用紙の棚のところで立ち往生している。


男の子の方が、先輩と言われた女の子をじっと見ている。



「・・・ってよ」



「へ?」



「届かないの」



女の子の方は俯いて、顔を赤くしている。



なるほど。棚の上の方に目当てのものがあるけど、背が届かなくて困っているわけか。



しかし、後輩であろう男の子に弱みを見せたくなかったから、恥ずかしくてたまらなくなっているというわけだ。



「これぐらい・・・よっと。はい。」



と、目当ての原稿用紙を軽々取って、先輩に渡す。



しかし、先輩はそっぽを向いて



「これぐらい・・・ってあんた。失礼じゃない?なに?私がそんなにチビだっていいたいの?」



「いや、そうじゃないですよ。これぐらいお安い御用ですよっていう意味ですよ」



後輩の男の子はなんて優しい子なんだろうか。



まるで、千手観音のような優しさ。



「ふん!私だって・・」



「危ない!!」



背伸びして、取ろうとしたが、足元のバランスが取れず、どんがらがっしゃんと音を立てて、二人が倒れた。



後輩に先輩が重なる形になった。



「ご、ごめん」



顔を真っ赤にして、後輩から離れる先輩。



そろそろ、声をかけよう。



「一部始終、拝見したよ」



急の登場に二人ともポカーンとしている。



私が名刺を差し出すと、二人とも大慌てして、サインをねだってきた。



実は彼らは、俺町高校の新聞部だったのだ。それで私に憧れているわけか。



「それにしても君たち、今時ベタなこけ方するね」



「み、見ていらしたんですか?ぜ、絶対に記事にはしないでくださいね?」



ごめん。しちゃったわ。



苦情は受け付けん。



「じゃあ、一人ずつ取材しようか。よし、女の子の方から先に始めようか。」



後輩君には、店を出てもらった。




短めのツインテールで、頭が私の胸のあたりにくるぐらいの身長だ。

(決して、チビと言っているわけではない)



「じゃ、名前は?」



「恋条(れんじょう)です。黒井さんの取材を受けれて光栄です。」



その言葉は、本物らしく目をピカピカと輝かせている。



この仕事してて良かったなと思った。



「ズバリ、聞きます。これは、長い経験から得た独自の人間観察力が生み出した勘なんだけど、君、あの後輩くんのこと好きでしょ?」



「え!?」



彼女の心臓がドキッと音を立てた。




周りにバレないように振舞ってきたんだろうが、惜しくもバレバレだ。



「な!?・・そ、そんなわけ・・ないじゃないですか!!誰があんなやつなんか・・」



「せんぱぁい・・もう終わりましたかぁ?ボクもそろそろ取材うけt」



後輩君の悪口を言っているときに、後輩君が入ってきて、聞かれていたのではないかという不安から、恋条さん

は一瞬だけ無言になり、すぐに



「も、もう、終わったわよ!ね?黒井さん?」



「ボクはまd・・・・・行っちゃったよ」



取材の対象に逃げられたのは初めてである。



彼女は、顔を真っ赤にして、逃げるように店の外に出て行った。



「じゃあ、君、名前は?」




「向井田です。よろしくお願いします。」




そういうと、彼は爽やかな白い歯をこちらに向けて笑顔を作った。




作ったというより、彼の内面にある優しさが顔に出ているだけなのだろうが。




「向井田くんね・・正直、恋条先輩のことどう思う?」



向井田くんは、ちょっと間をあけて、こちらをちらりと見ると、言葉を選びながら言った。



「先輩は、普段はガサツで、自分勝手で、無頓着なところがあります」



このとき、私は気付いていた。



数秒前に、恋条さんがこっそりとこの店に入ってきて、彼のいる棚の裏で聞き耳を立てていることに。



今頃、どんな顔してんだろうな。



もしかすると、本気で泣いてるかもな。




「けど、たまに親切で、心は繊細・・って言うかピュアで・・ホントはすごく優しくて・・・ボクはそんな先輩が大好きです。」



向井田くん。君は本当に天才だよ。



とか思っていると、向こうの棚から恋条さんがやってきて。



「ほら、もう帰るわよ!」



「えっ?でもまだ原稿用紙が・・・」



「いいから!!」



恋条さんは、なみだ目だった。



どうやら、私の推理は正しかったようだ。



彼女は顔を真っ赤にしながら、向井田くんを店から引きずりだしていった。



なんだ・・お似合いじゃないか。



と思いながら、微笑しているうちに、自分も手帳を買わねばならないことを思い出す。



あ、誤解しただろうな、彼女。



向井田くんの言う「大好きです」ってのはたぶん・・・



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だろうな。まあ、これも私の推理に過ぎないが。