たけしさんの本を最近、何冊か読んだのですが今日はこの本のことを。写真が随分お若いなあと思ったら1996年の訪英時のものだそうです。出版は2002年です。
偶然ながら私自身が初めて大英博物館を訪れたのも1996年でした。世界の歴史と知識が凝縮したように集められているこの博物館の展示品はとても一日で見て周れるものではありませんでした。私はロンドン滞在時、まる二日ここへ通い、朝から夕方までの時間をかけて見て周りました。大英帝国という国はよくぞまあ世界中からこれだけのお宝・遺産を強奪してきたものだわ、と思わずにはいられなかった。ほんとにすごいスケールで。日本にこんな博物館はないです。そしてこんなに世界のお宝を展示していながら入館料無料という太っ腹ぶりにも驚いたものです。
アーティスト、作家、映画監督でもある北野武さん、この人のフィルターを通したらそれぞれの展示物はどんなふうに見えるのか、そういうところに興味がありました。
当時、バイク事故を起こして間もなかったたけしさん、九死に一生を得て、自分の生きている意味を真剣に考え始めたといいます。そこで頭に浮かんだのがロンドンの大英博物館。なぜか?そこに入っているものはみな、人間が死んで後世に遺したものばかりだから。皆、いつか自分が死ぬことを知っていてそれを超えた時代の人に自分という存在を伝えたかったのだろう、大英博物館は「生きてきた証」の巣窟であり、そこにひょっとしたら彼本人の「生きている意味」が見つかるかもしれない、それで行ってみたくなったと。
イギリスとフランスって昔から仲が悪いけれど両国間のお宝争奪戦も相当激しかったようです。英仏という国は「文化は創り出すだけのものじゃなくて、また奪い取るものでもあるということも知っていたんだ」という彼の気づきもとっても印象的。
世界の歴史、文化が独特の毒舌でつづられていく様子も堅苦しくなくて面白いです。迫力満点の展示品に「とても疲れた」と言ってみえたところは私にも身に覚えがありました。
最後のまとめの部分でたけしさんがロンドンという街について感じたことが書かれてます。ロンドンという街は「道楽オヤジの枯れた町。でもポケットの中にはたんまり遺産」って表現されているところがほんとその姿の本質を表現していてすごいなって思いました。ロンドンの街は居心地がいい。この街は若かった頃に無茶をして、博打して、女の人とも思い切り遊んで、うまく年を取った人みたいだと。そういう人は何でも知っているけれどひけらかさないし、何か聞いたら「それはねぇ」といいことを言ってくれる。うまく枯れた人が住んでいる、つまりうまく枯れた町。それでいてポケットの中には昔からの遺産をたんまり隠していたりする。大英博物館なんてまさにその代表。
こういう見立て、表現ができるところが、たけしさんならではの感性、知性なんだなあって思いました。読んでてなるほど、言いえて妙。そう思いながらやっぱり自分の住む日本のことはどうなのかなって思ってしまう。今後同じように枯れていくこの国はどんな老いた国になるのでしょう。