先日のキュビズム展で鑑賞した作品の中にユダヤ人の墓を描いたシャガールの作品がありました。シャガールの作品は青色とか赤色とか明るい色彩の絵を描くイメージなのにそれとはかけ離れたイメージの作品です。
山のようにうず高くごちゃごちゃっと積み上げてあるのはお墓です。なぜこんなにひしめくようにお墓が建っているのかというと、ヨーロッパで差別されていたユダヤ人はお墓の区画さえ十分な土地を許されず、かつ他の場所に棺を埋葬することを許されなかったためこんな狭いところに押しやられていたからです。
シャガール自身もロシア生まれのユダヤ人。故郷を出てパリで画家として修業します。彼は90代まで長命しました。彼が生きた20世紀は自身や同胞が受けた迫害そのものと重ね合わさります。この作品の前に立ったとき、かつて目にした光景が脳裏によみがえってきました。私はこれと全く同じものを見たことがありました。場所はチェコのプラハの街角でした。
下の写真は私が撮影した一枚です。
この時はひとりでチェコを旅していました。プラハの街をぶらぶら歩いて、ある博物館だったか資料館に入り、上階への階段から外をふと見た時にこの光景が目に入ってきました。無数の墓石がひしめく様子があまりにも異様でした。西洋のお墓というと、どこも広々スペースが取ってあって、緑豊かな公園のような姿が一般的だと思っていたので余計に。
20世紀のナチによる迫害以前から、遠い昔からユダヤ人の歴史は迫害の歴史でもありました。その証左のような光景でした。墓石にカメラを向けることに当時はとてもためらいを感じつつ、一枚だけ手早く撮ってしまったのがこの写真です。
シャガールの描いた上の絵。土の一部が盛り上がっているのはいくつもお棺を重ねてあるためでしょう。プラハのお墓でもスペースが足りないためお墓の上に土を盛って次の人の墓としていたそうです。故郷を離れて、迫害の人生を送った末に亡くなる同胞らが最期はこのような過酷なお墓に入れられてしまった。それを見つめるシャガールの心の裡・・彼の痛みが想像される一枚でした。今回の作品展で特に印象に残ったのがこの作品でした。これから本格的に移民を迎える日本・・、他民族同士が本当に憎みあわずに、調和して生きていけるのか?いろいろ考えさせられます。