12本目。

 

監督:濱口竜介

キャスト:西島秀俊、三浦透子、霧島れいか、岡田将生

 

舞台俳優であり、演出家の家福悠介。彼は、脚本家の妻・音と満ち足りた日々を送っていた。しかし、妻はある秘密を残したまま突然この世からいなくなってしまう――。2年後、演劇祭で演出を任されることになった家福は、愛車のサーブで広島へと向かう。そこで出会ったのは、寡黙な専属ドライバーみさきだった。喪失感を抱えたまま生きる家福は、みさきと過ごすなか、それまで目を背けていたあることに気づかされていく…(Filmarksより抜粋)

 

2021年日本映画。久しぶりにアマプラで映画鑑賞。私は原作である村上春樹作品もストーリーに登場するチェーホフやベケット作品についても疎いので理解できるかな?と思いながら見始めましたが、役者さんたちの素晴らしい演技と言葉でストーリーに引き込まれました。人物の心の裡が丁寧に表現されていて、観終わってからも余韻が残る作品でした。

 

私が受け取ったメッセージは「自分自身の心から目を背けるな。」ということ。印象深かったのは最後の「ワーニャ叔父さん」の舞台場面。「地獄のように辛い現実、過去があっても絶望しても、長い長い日々を、長い夜を生き抜きましょう・・・。」というセリフ。あの世にいってから神様に苦しんだこと、辛かったことを神様に話しましょう、その時に神様は憐れんでくださるわ、と。チェーホフの言葉は現代人の心にも響くものを持っているように感じました。

 

長尺の中で人物たちに笑顔が殆どなかったことが思い出されました。ふと自分自身も「この一年間で心の底から笑ったことが何度あったか?」と考えてしまいました。なにげないながらも現代人の心を映し出した作品でした。それゆえにカンヌやアメリカでも高く評価されたのかと思いました。

 

しかし、ラストのシーンはとりわけ無表情だったドライバーの女の子に変化、幸せを感じさせる表情がありました。観ている側にも明るい未来を感じさせながらの終わり方でした。この終わり方なのが良かった。もうひとつ、車の中で岡田将生さんの神がかった長セリフのシーンも圧巻でした。