土井善晴さんのレシピは結構気に入っていて、時々、検索して参考にさせてもらっています。その方の著作ということで気になって手にとりました。
タイトルが意図するところは、日本人には古来から「ハレ」と「ケ」という考え方があり、日常(ケ)の食事は質素なものでよいという。格別に美味しくなくても良いし、手をかける必要もない。いろんな調味料や食材を合わせて別の味を作る・・という意味での「料理に手をかける」という感覚は本来、西洋的な考え方なんだそうです。日本の「家庭料理」は「手をかけないもの」。寿司や懐石料理とは違う。しかし、それはチューブの薬味を使うことやインスタント食品を多用することではない。旬のものを取り込んだ食材をそのままいただくのに近いくらいで料理すること。そして丁寧に作ること。和食の背景にあるのは「自然」であると。(西洋の食の背景にあるのは「人間の哲学」。)
この本では日本人の家庭料理という側面を切り口にして話題は和食/西洋料理の概念の比較や、生き方、日本人としての美意識、精神論、縄文時代から続く日本の文化の特徴などに敷衍されていきます。特に印象的だったのは、淡々とした日常を丁寧に生きることが大切・・というくだりです。食事を含む日常の生活を丁寧に生きること。毎日同じ繰り返しだからこそ、気づくことがあり、大事が起こる前の小さな気配を見逃さないことにつながると著者が言っているところでした。
もうひとつ引用すると、ここも:
「台所の安心は心の底にあるゆるぎない平和。料理を作ってもらったという子供の経験は身体の中に安定して存在する「安心」となる。それは大事のさなかにもただ逃れようとする恐怖心を抑えてくれる。安心は動揺することなく冷静に対処するための落ち着きとなる。安心は人生のモチベーションとなる。」
毎日の生活に刺激と変化を求めていた若い頃だったら・・表面的な華やぎに心を奪われて、本書で書かれていることはそれほど響かなかったかもしれません。そんな欲もおおかた落ち着いた?今、日々の暮らしがその人間の芯の部分、しっかりとした土台を作るという感覚がよく理解できるような気がします。そして、日々の家庭料理というのは、決してあれこれ考えて複雑なものを作る必要がないということで、料理担当としてはほっと肩の荷が下りる感覚も。(笑)これからも時々読み返したい、出会えてよかった一冊でした。