書店でこの本に興味がいったのは、しばらく前にユニクロや無印が製品に使用する新疆綿に絡んで、ウイグル人の強制労働、虐待への告発が問題になっていたからです。いま世界ではコーヒーやダイヤモンドなどそれらが生産される背景にある倫理的な問題に関心が強まっているように思います。もしかして自分自身もユニクロや無印の服を買うことで、意図せずして、少数民族虐待に間接的に加担してしまっているのでは?と感じたので。

 

新疆ウイグル自治区で現在、伝統、文化、習俗、歴史などウイグルにまつわるあらゆることが中国政府の手で否定されているという記述にショックを受けました。衝撃的だったのは:

 

-宗教が禁じる豚肉を強制的に食べさせられる。(ウイグル人の大半はイスラム教徒)

-適齢期の女性と中国人男性の結婚強制→ウイグルの血、文化を薄めるため。

-子供たちを親から離して徹底的な漢人教育→文革時代の紅衛兵みたいな子供を育てるの?

-なにかと因縁つけてウイグル人を強制収容所へ収容。内部で行われていることがおぞましすぎて現代にこんなことが?と信じられない。(臓器移植ビジネスの生贄など)

 

中国政府がウイグル人にしていることは現代のエスニック・クレンジング(民族浄化)、つまりナチがユダヤ人にやったホロコーストであると批判されています。このままいくと10年後にはウイグル人の文化は消えてしまうと。

 

「なぜウイグルがここまでされるの?」と読み進めていくと、ウイグル自治区に独立されたりしたら中国政府側としては困る理由があるから。地政学的にもロシアやトルコなど他国との近くで重要な位置にあるし、地下資源も豊富なので手放したくない。そうならないようにここを「中国化」してしまいたいというのが中国共産党の思惑。トランプ政権時代にアメリカがウイグル人の人権問題に踏み込んできたけれど、これはアメリカが米中の冷戦構造の中でウイグルを重要な切り札と考えているから。また普通はイスラム教徒は同じ宗教同士、結構連帯が強いはずなのだけれど、パキスタンやエジプトを始め、他のイスラム諸国は中国に経済で懐柔されているため、中国政府に気を遣って、何もできてない状況。

 

著者はウイグル問題を「大国の都合によって翻弄される弱小民族の悲哀を凝縮したようなもの」と言ってます。米国は外交のカードとしてウイグルを利用しているだけ。この地の利害にコミットしない国(日本)立場から発言すべき。その方が説得力があると。(→ウイグル人活動家、組織、知識人らにノーベル平和賞授与のはたらきかけを)

 

日本人はこの問題を自分たちと関係ない遠い他国のことと思っているかもしれないけれど、中国のやり方をみていると日本だって危ない。いまはアメリカに守ってもらっているけれど、アメリカは地理的にも経済的にも日本に利用価値がないと考えたら、その時はもう守ってくれない。見捨てられる。そうしたらどうなるか。この本でも書かれていますが、最近の香港で起こったことからも、中国は次に台湾に狙いを定めるのではないかと。そしてその次は・・。沖縄や尖閣諸島が照準に入ってくるのではないか。日本はその歴史の中で他国に侵略されたり、植民地化されたことがない世界でも稀有なラッキーな国。日本の人は自分たちの国や文化が消滅の危機に陥っている人たちへの共感が薄く、人権問題に対してもどこか鈍感な印象があるように感じることがあるのだけど、それはこういう歴史によるものなのか。日本も今後、安泰な国であり続ける保証は決してないのではと?と、この本を読んで思いました。