89、90本目。

監督:成島出
キャスト:永作博美、井上真央、小池栄子、森口瑤子、渡邊このみ、田中哲司
生まれてすぐに誘拐され、犯人の女によって4歳になるまで育てられた秋山恵理菜。両親のもとには戻ったものの、もはや普通の家庭を築くことは出来なくなっていた。やがて21歳となった彼女は、妻子ある男の子供を身ごもってしまう。恵理菜はやがて、封印していた記憶と向き合うべく逃亡生活を辿る旅に出る──。会社の上司との不倫で妊娠し、中絶手術の後遺症で二度と子供を産めない体となったOL、野々宮希和子。相手の男はいずれ妻と別れると言いながら、その妻はいつの間にか子供を産んでいた。自らにケリをつけるべく、赤ん坊の顔を一目見ようと夫婦の留守宅に忍び込んだ希和子。ふと我に返ると、赤ん坊を抱えたまま家から飛び出していた。赤ん坊を薫と名づけた希和子は、そのまま逃亡生活の中で薫を育てていくことに。一時身を寄せた奇妙な集団生活施設“エンジェルホーム”にも危険が迫り、追いつめられた末に流れ着いた小豆島で束の間の安寧を手に入れた希和子と薫だったが…。〜All Cinema~
2011年日本映画。幼児誘拐、不倫の果ての妊娠など重いテーマの物語です。観終わってからさめざめと泣いてしまいました。久しぶりに涙が止まらない体験をしました。この年の日本アカデミー賞では11部門受賞している作品ですがおそらくこの年でNo.1の映画だったのかと。あの子役の女の子、ママ役の永作博美の演技が素晴らしく、罪を犯したはずの希和子に思い切り感情移入してしまって。
この夏、ひとりで旅した小豆島が後半の舞台になっていることも印象深かったです。希和子と薫の親子の幸せがずっと続くことを思わず願ってしまいました。あの事件のため不安定な家族関係の中で育つことになった薫(恵里菜)が成人してから訪れた小豆島で、「封印された記憶」・・・自身がかつてここで「愛された」事実があることを知ります。その後の希和子、薫たちがどうなったのだろうかと思いを馳せました。小池栄子さんの役も何だか生生しいくらいですごかった。社会との接触を断った狭いカルト世界で育つとこんなふうになるのか・・と思わされるような。俳優さんたちの演技が秀逸で一見の価値ありな作品だと思いました。

原題:LE TOUT NOUVEAU TESTAMENT/THE BRAND NEW TESTAMENT
監督:ジャコ・ヴァン・ドルマル
キャスト:ブノワ・ポールヴールド、カトリーヌ・ドヌーヴ、フランソワ・ダミアン、ピリ・グロイン
神様は退屈しのぎにパソコンで人々の人生を弄ぶ意地悪なおっさんという過激な設定で贈る奇想天外ファンタジー・コメディ。そんな神様の10歳になる娘が反乱を起こし、人々の余命をメールで知らせてしまい、世界中に混乱が広がる中、人間界に舞い降りた娘が悩める人々と繰り広げる奇跡の数々を、シニカルかつ遊び心あふれる筆致で描き出す。〜All Cinema~
2015年ベルギー/フランス/ルクセンブルグ映画。神様がとんでもないゲスな男で、アパートに住んでいてパソコンから人類の運命を振り回す・・・という設定自体が結構奇想天外で面白かった。タイトルについては原題のほうが日本語タイトルの「メール」という軽すぎるノリではなく、もっとキリスト教のニュアンスを汲み取っている感じ。キリスト教が血肉に溶け込んでいるヨーロッパ圏の人にはもっと面白さを感じる内容だったのではないかと想像しました。
なぜ神様役の父親があんな乱暴な専制君主的な役回りなのだろう、と最初のうちは思っていたのですが・・・見ているうちに思い出しました。そういえば旧約聖書の神、って「すごく怖い」んですよね。嫉妬深いし、いうことを聞かないと命とられちゃう、みたいなイメージがある。優しいお父様のイメージは多分イエス・キリスト以降の新約聖書からのもの。映画の制作者はその旧約、新約聖書の「神」のイメージを利用して思い切り斬新なコメディにしたのかと。そうなると娘の書く「新・新約聖書」の時代、父親ではなくこれまで家政婦のように虐げられていた母が力を持つ展開になっていたけれど、それこそ「これからの時代」の象徴なのかしら、とか。観ながらいろいろ想像しました。