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太平洋戦争末期、9回出撃して9回生還した陸軍特攻兵について書かれた一冊です。
昨年出版された本ですが、この特攻兵だった方は少し前までご存命だったそうです。
著者の鴻上さんが入院中のご本人・佐々木さんに会いにいかれ、
数度のインタビューを経て出版に至りました。

読みながら戦後70年を経ても尚、同調圧力や自己を主張できない雰囲気など日本組織の残念な体質は現在も引き継がれていることを感じました。
天皇陛下に特攻で散ったと報告したからには生きて帰ってきては困る、
なので「絶対に次こそ死ね」と命令する上官。
目的そのものが「敵艦を沈めること」から「死ぬ」ということに
変わっていく怖さ。死という犠牲をいとわない特攻兵の行動が更に残りの兵士たちを鼓舞するという極端な精神論。命を軽視する風潮。
米国側の対策で特攻の効果はすぐになくなってしまったのにそれでもやめられない、ただ続けることだけが目的になっている状況。
「おかしい」と思っていてもだれも率先して中止と言わない、言えない雰囲気。

それでも生きて帰ってくる佐々木さんに対し、
なんと佐々木さんを殺害する計画まで軍内であったそうです。
戦争が終わったのでその計画が履行されることはなかったのですが
上司の言う通りに死なない彼に、歪んだ憎しみが募ります。
当初は威勢のいいことを言っていても分が悪くなると
責任転嫁して逃げてしまう上官たち。
関係者の欺瞞を見抜く著者の鋭い視線を感じました。

これを読んでいた月初、日大・アメフトの不祥事について頻繁に報道がありましたが、本書の内容と日大の事情があまりにも重なりました。

そして本書の最後に書かれていた数年前の自衛隊の南スーダンへの派遣に際し、
自衛隊員に実施された「駆けつけ警護」に関するアンケートについての記述・・・

駆けつけ警護への参加に対して
1.熱望する 2.命令とあらばいく 3.行かない

という三択があり、3に〇をつけると個人的に上司に呼ばれて
その自衛隊員は上司から延々と問い詰められたそうです。

特攻兵の方々・・・当時の動機は「志願」とされていたのだけれど同じような
ケースで「行かない」に〇をつけると、上官から呼びだされ詰められたそうです。
日本の組織が根っこに持つ問題はいまだに変わってないのだなと
驚愕にもにた感情を覚えました。


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随分前(10年以上前)の本なのですが、久しぶりに読み返しました。
著者の審美眼で選ばれたセンスが良くて一生使えるモノのリストです。
マリアージュフレールの紅茶、フォックスの雨傘、リーデルのワイングラス、
グローブ・トロッターのトラベルケース、有次の包丁・・・なども
この本で知りました。庶民にはなかなか手の届かない高級品が多いですが
写真を眺めつつ、それに因むエッセイを読んでいるだけでも心が潤います。
いま興味があるのはアルクラッドのフライパン鍋、C&Cのリネン、
シンプレックス社のケトルなど。
今後も分相応に少しづつ良いものを身の回りに揃えていきたいと考えています。
素敵なモノのガイドブックですね。チュー

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随分前にお昼の連続ドラマで横山めぐみさんが主演されて
話題になっていた記憶があります。
原作は当時の新聞連載小説。ちょっとドラマとは違う内容でした。
菊池寛のさすがの描写力。ひっぱられ、ひきこまれます。
時代背景(大正デモクラシー)の雰囲気も濃厚。
男性を弄ぶ、孔雀のような美しさをもつ未亡人が主人公。
実は男性中心社会に挑みかかるフェミニズムをテーマにした
ストーリーなのだと思いました。
菊池寛の作品は読み終えた後にじわっと余韻が残るものが多いです。
これも例外にあらずでした。


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これもとても面白くて濃い一冊で
たくさん付箋を張り付けてしまいました。

世界の名だたる企業は自社の幹部候補を著名なアートスクールに
送り込んだりしているそうです。
それは表面的な教養を身に着けるためにではなく
極めて功利的な目的のために社員の「美意識」を鍛えているというのです。
直観と論理のバランスがとれて成功した例として
アップルのiPhoneやMazdaの自動車デザインなどが挙げられています。

これまでのように分析、論理などサイエンス重視の経営では
追いつかないほど世界は複雑かつ高速に変化しており、
ロジックに頼らない直観で本質的な美をつかめる能力が求められているからだとか。
大学院でMBAが量産される今日では従来の経営分析手法も斬新さを失い、
その価値が陳腐化しているといいます。

相次ぐ企業のコンプライアンス違反はこうしたサイエンス重視経営の弊害、
という指摘は当初意外な感じがしましたが、
利益を出す手法がどこでも同じであれば市場は「赤化」するのみ。
そんな中で勝つためにはそれこそイカサマなことに
手を出すしかなくなってしまうといわれると真面目なひとほど
そういう手段を選んでしまうような気もしました。

今後企業が生き残っていくためにはサイエンス的手法と同じくらい
直観、感性、美意識が問われることになりそうですね。
この本は本棚に残しておいてまたいつか読み直したいです。


今月の読書は11冊でした。(#^^#)

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