
山崎豊子さんの戦争3部作のひとつ 「大地の子」を読んでいます。
全部で4巻、昨日で半分の2冊を読み終えました。
「大地の子」の主なテーマは中国残留孤児。
物語は著者の綿密な取材に基づいて展開していきます。
長野県から満蒙開拓団として両親に連れられ移住した男の子が
7歳の時に終戦を迎え、引き揚げの混乱の中で家族と生き別れ、
死に別れしてしまいます。
幸いにもある立派な中国人の養父母に引き取られて
中国で成長していくという話です。
主人公(中国名:陸一心)が引き揚げの最中に経験した
修羅場は言葉にできないほど悲惨なものでした。
飢餓状態で逃避行する中、やってきたソ連軍が老若男女関係なく
想像を絶するようなやり方で日本人を虐殺してしまうのです。
目の前でまだ乳児だった下の妹は飢えで死に、
母親もまた残酷な殺され方をしてしまう。
陸一心がその後、小さい頃の記憶を失ってしまい、
実の親のことも思い出せなかったというのは
その時のあまりのショックの大きさゆえだったのかもしれません。
その後も日本人であるということで肩味の狭い思いをし、
根深い差別の中で生きていかなければならなかった。
おそらく中国残留孤児として中国で生きてこられた方々は
多かれ少なかれこの小説で描かれている
主人公と同じような経験をしてきたのではないかと思います。
以前よくテレビや新聞で目にしていた
中国残留孤児という言葉の後ろにある重いものを感じつつ、
読み進めているところです。
印象に残ったのは陸一心が貧しいながらも徳のある養父のすすめで
現地の学校に通い始めた時のこと。
まだ戦争が終わって数年、子供たちにとっても戦時中の記憶が鮮明だった頃です。
関東軍の中国人民に対する横暴や
虫けらのように身内が次々と日本軍に殺されたということを
授業でクラスメートが次々に発表する場面があります。
ソ連軍が戦争直後にやっていたことが
非人道的極まりない印象を与えるものだったのに
結局、日本軍も同じことをやっていた。
戦争の狂気というのは人間をここまで貶めてしまうものかと思いました。
またお隣りの国でありながら中国の現代史について
あまり詳しいことを知らなかったことを改めて思いました。
毛沢東が推し進めた文革とはいったいなんだったのでしょう。
文明や知識を否定し、一般の人々は相互監視で密告し合い、
上の人たちは権力闘争に明け暮れるという。
それからこの小説を読んで今回初めて「棄民」という言葉を知りました。
戦争に翻弄され、信じていた国に見捨てられた人たちの人生を
国はどんなにやっても償えないと思います。
関東軍の所業だけでなく、日本政府の南米移住政策も似たものですね。
現代なら北朝鮮の拉致問題も。前回に続き重い内容ですが
いろいろ考える機会を与えてくれる本です。