
主殺しをして逃走し、その後しばらく
木曽の山奥で旅人を殺し、強盗し、
極悪非道の生き方をしていた市九郎という男。
あることをきっかけに罪を悔い、出家し、
罪滅ぼしのため諸人救済の旅に出ます。
九州のある場所で、市九郎はそこの人々を悩ましていた難所に行き当たります。
そこで命を落とす人が多いことを知り、彼は岩場を掘削して、
人々を救おうという請願を立てました。
彼は鑿と槌を手に持ち、来る日も来る日もトンネルを掘り進めます。
20年という歳月が流れます。
20年間、太陽の光にも当たらず、ひたすら鑿で岩を切る日々、
市九郎の視力は薄れ、頬は痩せこけ、足もまともに立てないほどの姿になるのですが、
それでもなんとかこの大事業を完成させたいと、お経を唱えながら堀り進めていきます。
ある時、昔、殺めた主人の息子が成長し、仇討のために彼を追いかけてきます。
ようやく出会った憎き父の敵、すぐにでも彼を討とうとし、
市九郎も斬られることを望むのですが、せめてこの掘削を終えてから、と
周りの石工たちが市九郎の命乞いをします。
堀り始めてから21年目、主人の息子が追いかけてきてから1年半ののち、
ようやく掘削が完了し、闇の向こうに太陽の光が・・。
市九郎を斬るつもりで追いかけてきた息子は、
いつの間にか仇討ができなくなっていました。
市九郎が二十余年もの間、「人々を救いたい」と、
持ち続けた精神は大自然の岩をも貫通する偉大さとなって現れ、
この偉業の前では、恩讐という感情はもう暁の星の光のごとくとなっていたのでした・・。

(写真はウエブサイトからお借りしました)
大分県中津市耶馬渓にある、禅海和尚が30年間をかけて堀抜いたという
「青の洞門」の史実をもとにした小説です。
(史実では和尚さんは犯罪はしてませんよ(^_^;)
随分昔に読んだ本ですが、久しぶりに読みなおしてみました。
菊池寛の読み易い短編小説8作が収められています。
どんな人間でもきっと持つような苦悩、嫉妬、虚栄の心などが
みごとに描かれていて、一編を読み終えるごとに後をひくような余韻が残ります。
名作といわれるものはやはり違いますね・・。
今日は最後の「俊寛」を読んで寝ようと思います。(^_^;)