第三 当裁判所の判断
一 争いのない事実,第一審原告らの職務内容,第一審被告の関西支社でのタイムカードの管理状況等は原判決の理由一,二に記載されたとおりであるので,これを引用する。
二 第一審原告らの平成元年4月分(同年4月15日までの分)以前の割増賃金(残業代)請求権が時効消滅していること
1 本訴提起前の第一審原告らと第一審被告間のタイムカードを巡る交渉の経過は以下の通りであったものと認められる。
(一)第一審原告ら(第一審原告横野,同小倉,同山口を除く。)は,第一審被告に対し,平成2年7月28日付書面(〈証拠略〉)で,退職の月から遡って,2年6ヶ月分のタイムカードを,同年8月10日までに送付するよう要請した。
(二)第一審被告は,これに対し,「単に出勤状況を知りたいというのみでは記録の存在を確認し,写しを取る等の多大の労力を払う合理的な理由があるとは考えられない。納得できる合理的な理由を示さなければ右要求には応じられない。」旨回答した(〈証拠略〉)
。
(三)第一審原告ら(第一審原告横野,同小倉,同山口を除く。)は,同年9月3日付書面(〈証拠略〉)で,〔1〕理由の如何を問わず送付できないのか,あるいは,〔2〕送付するには条件があるということか,いずれの趣旨か明らかにするよう求めた。
(四)第一審被告は,これに対し,前記(二)と同様の回答を繰返した(〈証拠略〉)。
(五)第一審原告らは,平成2年11月6日到達の書面(〈証拠略〉)で,時間外及び休日,深夜勤務(残業)について給与規程に基づき,〔1〕第一審原告横野につき500万円,〔2〕同斉藤につき200万円,〔3〕同萩原政彦につき680万2000円,〔4〕同八巻につき250万円,〔5〕同武内につき302万5000円,〔6〕同木下につき200万円,〔7〕同小黒につき301万5000円,〔8〕同村下につき250万円,〔9〕同門脇につき150万円,〔10〕同紫冨田につき700万円,〔11〕同鈴木につき200万円,〔12〕同小松につき25万円,〔13〕同萩原幹子につき27万5000円,〔14〕同小倉につき200万円,〔15〕同山口につき450万円の各支払いを請求するとともに,重ねて,タイムカードの提出を要請した。
(六)第一審原告ら(第一審原告横野,同山口を除く。)は,平成3年2月7日,大阪地方裁判所から同人らのタイムカードに関する証拠保全決定を得て,同月8日,大阪地方裁判所が検証を実施したが,第一審被告は担当者の所在不明等を理由にこれに応じなかった(〈証拠略〉,弁論の全趣旨。)。
(七)第一審被告は,平成3年4月10日,天満労働基準監督署から,第一審原告紫冨田の賃金及び労働時間について,事情を聞きたいとの呼出しを受け,同原告関係のタイムカードその他の書類を持参して説明を行った(〈証拠略〉,弁論の全趣旨。)。
(八)第一審原告らは,平成3年5月16日,本件訴訟を大阪地方裁判所に提起した。
2(一)以上によれば,第一審被告は,第一審原告らからのタイムカードの提示要求等に対して非協力的な態度をとった事実が認められる。(証拠略)によれば,右以前に第一審被告内部で時間外手当(残業代)支給の検討がなされていた事実が認められるから,第一審被告において,第一審原告らがタイムカードを要求する意図を推知できなかったとは考え難い。
後記のとおり,本件において,労働時間を正確に把握できる資料は,タイムカードに限られ,しかも,労働基準法37条は使用者に割増賃金(残業代)の支払いを命じ,同法108条では使用者に対し賃金台帳の調整を命じ,賃金計算の根拠を明らかにするよう要請している。これらの点を考慮すると,第一審被告がタイムカードの提示を拒んだことは使用者としての義務に違反し,かつ,第一審原告らの訴提起を困難にする目的があったものと評価することができる
(二)しかし,第一審原告らは,前記のとおり,訴訟外で割増賃金(残業代)の請求(催告)を行い,6ヶ月を僅かに過ぎた時点で,本訴提起に至っている。これらの事実や,取り敢えず労働時間を推計することも可能であったと考えられる点等総合すると,時効中断のために,より早い時期に訴を提起すること等も不可能ではなかったものと認められる。また,そもそも対立当事者に対し,訴の提起に積極的に協力するよう期待することには無理なところがある。そうすると,第一審被告の妨害行為によって,第一審原告らが時効中断を行うことが事実上不可能になったとはいえない。さらに,割増賃金(残業代)等に時効消滅を認めること(労働基準法115条)は,使用者が労働基準法に反してこれらを支払わないことが前提になっており,第一審被告がこれらを支払わず労働基準法に違反したということのみで,時効の援用が許されないということにはならない。したがって,第一審被告が時効の援用をすることが,信義則に反し,権利の濫用に当たるとはいえない。
(三)第一審原告らのなした証拠保全の申立が,民法147条1号の「請求」や,同2号の「仮差押または仮処分」に該当しないことは原判決78頁6行目から80頁5行目に記載のとおりであり,本訴提起以前に時効の中断がなされていない以上,その余の点を判断するまでもなく,第一審原告らの平成元年4月分(同年4月15日までの分)以前の割増賃金(残業代)は,いずれも時効により消滅している。そうすると,同部分についての請求は,その余の点を判断するまでもなく理由がない。
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