当ブログでは、時間外勤務について触れている裁判例を紹介しています(つづき)。
4(一)本件給与規程が本件就業規則に対応する型で作成され,その一部をなすものであることは,右規定の内容や,双方が一括して天満労働基準監督署長に提出されていることからも明らかである。
 一方,新井立夫が現実に運用されていた給与規程である旨供述する(証拠略)は,本件就業規則に明らかに対応せず,本件就業規則の一部をなす給与規程であるとは認められない。
 そうすると,本件給与規程は本件就業規則と一体をなし,その内容をなすものとして,後述のように法的効力を有するものと解され,現実の取扱いがこれとは異なるものであったとしても,その後,本件就業規則・本件給与規程が有効に変更されたものとは認められない以上,右効力を否定することはできない。
(二)ところで,労働基準法は,使用者に対し,労働時間・賃金・退職に関する事項について,就業規則でこれを定め,行政官庁(労働基準監督署長)に届け出るよう命じている(平成10年改正前89条1項,罰則120条。)。使用者は,就業規則を作成・変更する際,事業場の労働者の過半数を組織する労働組合があるときは労働者の過半数を代表する者の意見を聞かなければならず(90条,罰則120条),その内容を労働者に周知させなければならない(106条,罰則120条)。そして,就業規則の基準に達しない労働契約は当該部分を無効とし,無効となった部分は就業規則で定める基準によるものとしている(93条)。
(三)就業規則は労働契約の具体的な内容をなすものであり,本来,使用者が独自に作成(変更)すべきものである。しかし,その内容に一定の規制をしなければ,労働基準法が定める基準に達しない労働契約が締結されたり,労働条件の一方的な切り下げが行われる危険があるので,労働基準法は,就業規則を労働基準監督署長に提出するよう命じて,その内容を規制するとともに労働者の過半数を代表する者の意見を聞くよう要請しているものと解される。
(四)右のとおり,就業規則は使用者である第一審被告が,本来,単独で制定できるものであり,第一審被告は労働基準監督署長に対して,本件就業規則及び本件給与規程を有効なものとして提出したことが明らかであるから,就業規則として有効なものと考えられる。そもそも,労働基準法が労働基準監督署長に就業規則の届け出を罰則を設けてまで義務づけている趣旨から考えても,第一審被告において,本件就業規則及び本件給与規程を提出し,これを下回る内容の労働契約を行わない旨誓約しながら,本件給与規程が実体を反映せずに無効であるとか,労働者への周知を欠いて無効であるなどと主張することは許されない。
5 したがって,本件就業規則及び本件給与規程は法的効力を有するものと解されるので,第一審原告らは本件給与規程に基づき,第一審被告に割増賃金(残業代)の請求をなすことができる。
四 タイムカードにより割増賃金(残業代)算定の基礎となる労働時間の算出がなされるべきこと
1 本件就業規則11条は,前記のとおり「所定時間外に勤務させることがある。時間外勤務(残業)に対する賃金は給与規程14条に定める。」旨規定している。
(一)右規定及び第一審被告での従前の取り扱い等に照らすと,右就業規則11条及び給与規程14条は,後述のとおり,第一審被告がタイムカードで把握した労働時間を前提に,所定時間(本件就業規則8条で定められた勤務時間)を超える部分を労働基準法37条の定めと同内容の割増賃金(残業代)支払い対象と予定し,その全てが厳密な意味での労働基準法上の労働時間であることまで要求していないものと解すべきである。
(二)なお,第一審原告らの本訴請求は,タイムカードで把握される労働時間を前提に,所定時間を超えて8時間までの部分を法定内超勤,これを超える部分を法定外超勤と各扱い,本件給与規定及び労働基準法37条に基づき割増賃金(残業代)の請求をしている。しかし,右(一)のとおり,本件給与規定の内容は,労働基準法37条と同内容であり,また,本件において,労働基準法上の労働時間のみを厳密に区別することは困難である。そうすると,本訴請求の趣旨は,法定内超勤部分については本件給与規定に基づき,これを超える部分は労働基準法37条に基づき請求する趣旨であると解され,本件給与規程の内容が労働基準法37条と同様のものである以上,両者を区別する実益は全くない。したがって,以下では,所定時間を超えて8時間までの部分と,それを超える部分の区別として,法定内時間外労働(残業)と法定外時間外労働(残業)の言葉を使用するが,後記のとおり,必ずしも,労働基準法でいう法定内外の時間外労働(残業)と同義ではない。
2(一)ところで,第一審被告は,割増賃金(残業代)の基礎となるべき労働時間は労働基準法上の労働時間に限定される旨主張する。
(二)確かに,労働基準法37条1項が割増賃金(残業代)の支払いを命じているのは,それが労働基準法上の労働時間【労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間(最判平成12年3月9日)】に該当することを前提として,法定労働時間を超える部分,深夜,休日労働に該当する部分についてである。
(三)しかし,労働基準法の定めは最低限度の労働条件として,これを下回る労働契約を締結してはならないという定めに過ぎず,また,右労働基準法上の労働時間を把握することは必ずしも容易ではないから,使用者において,これとは異なる労働時間の把握方法を定め,これを基準に割増賃金(残業代)を算定することも,これによって算定される金額が労働基準法が定めるものを上回るものであればむしろ法の趣旨に適い望ましいことである。
(四)(1)前記のとおり,本件就業規則11条は所定時間を超えて業務を命じた場合,右労働時間に対して割増賃金(残業代)を支払う旨定めている。
(2)ところで,昭和60年に関西支社長として同支社に赴任し,平成2年6月まで,第一審原告らの労働時間を管理する立場にあった隅崎守臣は,原審証人尋問において,「私が赴任した当時,関西支社では前支社長に対する不満から同支社長を吊るし上げるなど職場が乱れていた。私は関西支社の立て直しのために同支社に派遣された。同支社の立て直しのため,適材適所の人事配置と,各社員の労働時間を把握するうえでタイムカードの管理を厳格に行う必要があると考え,打刻もれ等があっても,自分勝手に訂正をすることがないよう各部署の責任者にタイムカードの管理をさせるようにした。そして,打刻もれ等の場合には,その理由等を所属長に提出させ,所属長の承認を得て,さらに,総務がこれを承認した場合のみに総務の方でこれを記入する扱いにした。関西支社の仕事はグループを組むことが多く,担当者間で至急連絡を取る必要が生じることもあるので,出張その他の場合においても,その居所を明らかにして,私の方で把握するようにしていた。また,50坪程度の部屋に,関西支社に所属する京都・名古屋の者を除く,ほぼ全員の社員が詰めていたので,なるべく一番最後まで残って,社員の勤務状況を把握するよう努めていた。当時,関西支社では5年弱の間に,業績を約3.3倍にまで延(ママ)ばしたこともあり,仕事量が異常に多く,残業が避けがたい状況にあった。会議が多くなる10,11月ごろと4月ごろには特に繁忙となり,時間外勤務(残業)が1カ月100時間に達する者も生じた。期日間近に顧客の要望が増えて,これに応じるために突貫工事となったり,多忙な顧客に合わせて夜間しか打ち合わせの時間が取れないことなどが時間外勤務(残業)の原因であった。第一審原告らが残業していることはほぼ毎日見て承知しているし,時間外勤務(残業)であることを分かりながら,これを強いている状況にあった。タイムカードの記載が実際の労働時間よりも短いということはあっても,勤務時間が水増しされていることなどは絶対にないと思う。時間外手当(残業代)を定額の手当に代えた後も,本社でタイムカードを集計して,社員の労働時間を調査し,昇給・昇格の資料にしていたし,契約社員の時間外手当(残業代)算定の資料ともなっていた。私達,銀行から派遣された役員は,残業が蔓延し,かつ,定額の勤務手当しか支払われない状況が問題であると考えていたので,時間外手当(残業代)の支給を検討したが,社長等,他の役員の了解が得られず,私の在任中は実施に至らなかった。」旨供述する。

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