本ブログでは、時間外労働手当に関する裁判例を紹介しています(つづき)。
(3)〔1〕右隅崎守臣は,現在,第一審原告らが所属する会社の代表者であり,しかも,事実上第一審被告から追われる型で,その役員を退任した者でもあるので,第一審原告らに有利な供述を行ってもおかしくない立場にあり,その供述内容の信用性の判断は慎重に行われなければならない。
〔2〕しかし,第一審被告が時間外勤務(残業)の実体等を調査した資料(〈証拠略〉,1990年1月12日付)にも「時間外勤務(残業)が顕著に見られるのは会議関係及び関西支社で,これは会議関係等の業務の特性,特に繁忙期の時間外勤務(残業)が極めて多いことによる。このほか博覧会関係もこの範疇に入る。繁忙期には時間外労働(残業)時間が80時間,多い者では100時間にも及ぶ。」等の記述がある。右記述によれば,当時,第一審被告において,関西支社での時間外労働(残業)の常態化が問題である旨認識して,時間外手当(残業代)の予算化等が検討されていた事実や,博覧会関係の事業場外労働についても労働時間の把握が可能であるとの前提を採っていた事実が認められる。
〔3〕また,特別朝礼における発言録(〈証拠略〉,1990年2月5日付)にも,右検討結果を受けて,時間外手当(残業代)を支給する予定である旨の記述がある。
〔4〕さらに,(証拠略)(昭和61年6月1日付)によると,第一審被告において,事実上,時間外手当(残業代)を定額の勤務手当に変更した後も「〔イ〕タイムカードの打刻忘れについて届け出を行わない場合には欠勤扱いとする。〔ロ〕直行直帰の場合,直行届がない場合には欠勤。直帰届がない場合には早退。」とそれぞれ扱うことにより,第一審被告がタイムカードによって,社員の労働時間を厳正に管理しようとしていた事実が認められる。
〔5〕前記隅崎守臣の証言内容は,右〔2〕ないし〔4〕の事実に沿うものであり,また,その証言内容も具体的かつ詳細なものであるから,〔1〕で述べた点等を考慮しても,なお,充分に信用できるものであると考えられる。
〔6〕もっとも,前記八木啓充は陳述書(〈証拠略〉)で,「タイムカードに打刻させていたのは,賞与の際に減額要素となる欠勤や遅刻を把握するためであり,社員の勤務時間を把握することにあったのではない。それまでタイムカードを打刻させていたので,そのまま継続していたに過ぎない。1988年(昭和63年)に新たなタイムレコーダーに切り替えたが,オンラインを使い,本社にその結果を送信等した事実はない。新型のタイムレコーダーに変(ママ)えたのは,契約社員の勤務時間数,時間外勤務(残業)の集計ができ,省力化に繋がると考えたことにある。関西支社には契約社員が4名しかいないのに,その勤務時間の把握のためだけに電話回線を利用して,本社とオンラインを結ぶことなど考えられない。契約社員については,給与の計算のために関西支社で集計表を作成していたが,一般社員については,時間計算による時間外手当(残業代)を支払っていなかったことから,関西支社で時間外勤務(残業)を集計することは勿論,関西支社から本社に一般社員の労働時間の集計表や,その裏付けとなるタイムカードが毎月送付されてくるといったことはなかった。」旨陳述する。
 しかし,一般社員についてタイムカードで勤務時間の管理を行っていなかったというのは不自然であり,容易に信用できない。
 第一審被告は,前記(証拠略)からも明らかなとおり,定額の勤務手当に変更された後も,タイムカードの打刻や,直行・直帰の届け出を励行し,社員の勤務状況を把握しようと努めている。また,社員の勤務状況は人事上の重要な客観資料であるので,隅崎が述べるように,これを昇給・昇格の資料として重視する方がむしろ自然である。現に,第一審被告が関西支社の超過勤務(残業)状況を把握し,その予算措置等を考慮していたことは,(証拠略)より明らかである(証人新井立夫も,同号証がタイムカードを基に算出されていると思う旨供述している。)。また,数少ない契約社員の勤務時間数を把握する便宜のみから,新型のタイムレコーダーを導入するというのも不自然である。そうすると,前記隅崎の証言の方が合理的で信用ができ,「タイムカードで一般社員の勤務時間を管理した事実はない。」旨の八木啓充の前記陳述書中の陳述は,容易に信用できない。
〔7〕証人新井立夫も原審証人尋問において,「タイムカードの記載は正確ではなく,遅刻と早退,欠勤をチェックする意味しかなく,出勤簿代わりの役割しか果たしていなかった。直行・直帰の場合や,出張の場合に,どの時刻を記載するか,特に基準は決められていなかった。出社した後に,パンを食べたり雑談をする社員もいるなど,タイムカードは業務の開始と終了を正確に反映するものではない。」旨供述【陳述書(〈証拠略〉)を含む。】する。しかし,第一審原告横野は陳述書(〈証拠略〉)で,「証人新井立夫が,関西支社に頻繁に来ていたのは,前記隅崎が赴任する以前のことに過ぎない。当時支社長であった鈴木が会議専門で,翻訳関係の知識がなかったことから,本社の翻訳部長として,これを補充するためであった。隅崎が関西支社長となった後には来なくなった。」旨陳述する。隅崎が関西支社に赴任した経緯や,同人と新井との当時の会社内での地位・立場等を考慮すれば,隅崎が関西支社に派遣された後も,新井が同支社に頻繁に出入りしていたとは考え難く,右陳述書の内容は合理的で信用できる。(証拠略)等から,本件当時,関西支社では,超過勤務(残業)が常態化していた事実が認められることから考えても,右新井の証言は隅崎が赴任する以前の,秩序の乱れていた関西支社の状況を反映するものであるとはいえても,隅崎が赴任した後の関西支社の様子を認識した上のものであるとは認め難い。そして,社員にタイムカードを打刻させていた意味についての証言が信用できないことは前記八木の陳述書に対する検討の項で述べたとおりである。
〔8〕一方,証人宮脇昭好及び同佐藤廣道は,その原審証人尋問における証言【陳述書(〈証拠略〉)を含む。】で,「隅崎支社長は連日遅くまで会社に居残る社員を高く評価する傾向があったため,関西支社全体に早く帰りづらい雰囲気があった。そのため,急ぎの仕事がなくても居残り,夕食を出前で注文しながら時間をかけて残業する風潮があった。第一審原告らは,あらゆる場面で隅崎支社長に気を遣って不必要な場合も遅くまで居残っていた。また,平成2年6月11日新会社の設立を発表した後,自分達の新しい仕事の準備ばかりをしていた。」旨供述する。しかし,同証人らの供述には,隅崎から重用されなかったことについての反発も窺われるし,これらの供述からも,第一審原告らが残業していたのは,上司である隅崎の承認のもと,会社の業務を行うためであったものと認められる。したがって,前記隅崎の供述を否定する根拠とはならない。
(4)〔1〕前記隅崎の供述等によれば,第一審原告らが,時間外,夜間,休日の各勤務を行っていたのは,関西支社の最高責任者である隅崎の承認のもと,同支社の業績拡大に伴う業務の急激な増大に伴い,やむを得ず行われたもので,その明示あるいは黙示の業務命令によるものであると認められる。そうすると,本件就業規則11条が定めた所定時間を超えて業務を命じた場合に該当するものと認められる
〔2〕そして,第一審被告は,昭和53年に定額の勤務手当制度を採用するまで,タイムカードで社員の労働時間を管理し,これを基に労働時間の計算をして給与の支払いを行い,定額の勤務手当が導入された後も,契約社員に対しては同様の扱いを続けていた事実が認められる(〈証拠略〉及び弁論の全趣旨。)。
〔3〕その際,出張や外勤の場合等を除外していた事実は認められず,厳密な意味では労働基準法上の労働時間といえない部分についても,仕事の準備等があって,自由時間とはいえない点などを考慮して,これらを含めて賃金算定の基礎とする取り扱い(慣行)が行われていたものと認められる。しかも,右扱いは,勤務手当採用後も契約社員に対する関係では,そのまま継続されていた(〈証拠略〉及び弁論の全趣旨。)。また,一般社員についても,タイムカードによる勤務時間の把握が継続されていたことは既にみたとおりである。
〔4〕第一審被告が現実には定額の勤務手当制度を採用していたとしても,既述のとおり,本件就業規則(本件給与規程を含む)が法的効力を有するものである以上,これに反する取り扱いは何ら効力を有するものではないから,本件就業規則の解釈も従前の取り扱い(慣行)を前提に行われなければならない。したがって,本件就業規則にいう労働時間とは,タイムカードで把握される労働時間を前提にしているものと認められる。そうすると,右労働時間が厳密に労働基準法上の労働時間を充たさなければならないことを前提にした第一審被告の主張はいずれも理由がない。そもそもタイムカードに記載され,事後にも,その訂正等を求めていない以上,労働時間を管理する立場の第一審被告が,これを労働時間として承認したものと解すべきである。したがって,出張の際の移動時間であることや,事業場外労働であることなどが,本件給与規程における労働時間性を否定する根拠とはならない。
〔5〕なお,第一審被告は出張等の場合にタイムカードの打刻の仕方が一律ではなく不正確である旨主張する。しかし,前記のとおり,労働時間を掌握する責任は使用者側にあり,一旦,その労働時間性を承認して,タイムカードへの打刻等を認め,訂正等を求めていない以上,仮に,その取扱いが不合理で,従前の扱いでは業務に含まれないというのであれば,その点の立証は第一審被告がなすべきである。しかし,右立証がなされているとは到底いえない。また,一部形式的に不備なものが認められるとしても,これにより直ちにタイムカードの信用性が損なわれるとはいえない。

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